【北欧神話のあらすじ】フレイが勝利の魔剣を失ったわけ
フレイヤのお兄さんだけど、ちょっと影の薄いフレイ!
実はこの兄さん、ものすごいパワーの魔剣を持っていました。神々と巨人の最終決戦ラグナロクで、火の巨人スルトを切ることができる必須アイテムだったのですが……。
フレイ、このパワーアイテムを人にあげてしまうという馬鹿をしでかすのです。ここではそのいきさつをご紹介します!
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フレイ、恋わずらいになる
フレイはヴァン神族の長、ニヨルドの息子。愛の女神フレイヤの兄です。
……と聞くと聞こえはいいですが、ぶっちゃけ、お父さんニヨルドは自分の妹との間にフレイとフレイヤを作って、フレイとフレイヤは実の兄妹のくせにベッドインしてるという、ヤバい一家です。
でも一応、フレイは豊穣の神様で見てくれはいいです(フレイヤの兄さんだし)。人当たりもよかったので、神様たちの間でも「王子みたい!」と、人気者。
さて、フレイはある日、一世一代の失敗をします!オーディンの目を盗んで玉座フリズスキャルヴに座ったのです。
オーディンの玉座に座ることは、オーディンとその妻フリッグにのみ許される権利でした。他の神は絶対座っちゃいけないのです!
にもかかわらず、ひょいっと座ってしまったフレイ。
実はフリズスキャルヴは特別な玉座で、そこに座ると世界中を見渡すことができるのです。フレイは「座ってみたいな~」と、好奇心に負けて座っちゃったのです。
さて、彼の目に、世界のありとあらゆるものが飛び込んできたのですが、巨人ギュミルの館から一人の娘が出てくるのを見て、フレイの目は釘付けに!
彼女はギュミルの娘で、ゲルドという名でした。彼女はまるで光で作られているかのように美しく、彼女が館の扉を閉めようとして両手を上げると、空と海は一層輝きを増しました。彼女のために全世界が輝くかと思われました。
しかし、ゲルドが館の扉を閉めてしまうと、もう姿は見えなくなり、世界はまた光を失ってしまいました。
フレイはしょんぼり。家に帰ってから一言も口を利かず、眠れず、食べることも飲むこともやめて、ひっきーになってしまいました。
過保護なお父さんニヨルドは心配しきり。フレイの従者スキールニル(光り輝くもの)に言いつけました。
「行って、私の息子に尋ねてきてくれ。なぜそんなにも心が乱れているのか。気持ちを分かち合うことさえしたくないほど怒っているのはなぜなのか。なぜそんなにも悲しんでいるのか」
スキールニルは何とな~く、フレイがひっきーになっている理由を察してたので、
「まあ、聞くだけ聞いてみましょう。どうせろくでもない答えでしょうけどね」
と、答えました。
フレイ、魔剣をアッサリあげちゃう
スキールニルが尋ねると、フレイはペラペラしゃべり出します。
「お前なんかに話したところで、何になるんだい。たとえすべての妖精の光が毎日輝いたって、ぼくのこの心の苦しみを照らしちゃくれない。ぼくの心は、恋の苦しみでいっぱいなんだ」
「恋なんてそんな大したことじゃありませんよ。わたしに話せないほど、深い悩みだとは思えませんね。あなたの情事は何でも知っているわたしじゃありませんか」
……サラッと恐ろしいことを言うスキールニル!たかが従者なのに、ご主人のセリフをバッサリ切ってますね!
さて、フレイは、ゲルドを見て恋のとりこになったこと、彼女の美しさがどんなに世界を輝かせたか語りました。
「かつて誰も、僕が彼女を愛したように一人の女を愛した者はあるまい!僕は彼女を自分のものにしない限り、これ以上生きてはいけない!だが、彼女は巨人族だから、全ての神々はこの恋に反対するだろうよ」
こうフレイは嘆いて見せたのですが、次の瞬間のセリフがこうです!
「スキールニル、行ってくれ!彼女の父親がどんなに反対しようと、彼女をここへ連れてきてくれ。そうしたらお前にご褒美を上げるよ」
う~ん、恋は盲目ですね。「どんなに彼女が好きでも、周りはみんな反対するに決まってるから悩んでる」と言ったそばから、「周りなんかどーでもいいから女を連れてこい!」と言ってます!フレイ、何も考えていません!
スキールニルはちょっと考えて、
「それではわたしに、闇を突き進み揺らめく炎をも越えられる馬と、巨人と戦うことのできる剣をください」
ゲルドのいるところは巨人国のヨーツンヘイムですから、途中、炎の皮とかの難所がいっぱいあるのです。
「いいとも、いいとも!」
と、フレイは言われるままに、自分の持っている最も素晴らしい宝を二つともスキールニルにやってしまいました。
いかなる炎も恐れない馬(名前がはっきりしませんが、ブローズグホーヴィかも?と言われてます)と、勝利の魔剣です。
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スキールニル、ご主人のために頑張る
スキールニルは馬に乗って、すぐに出かけました。
馬の蹄は火花を散らし、巨人の国ヨーツンヘイムに入りました。
「外は暗くなった。お前は闇の中を走れるかい?」
と、スキールニルは馬に語りました。
「さあ、濡れた山を越えて巨人の住んでいる荒野に向かわなければならないぞ。お前とわたし、うまくやれるか、二人とも巨人の手に落ちるかどちらかだ」
スキールニルは一晩中馬を走らせました。魔法の炎の中を超え、夜明けに灰色の草で覆われた荒れ地に出ました。あちこち、煮えたぎる湯が沸き出ていて、ごつごつとした岩が点々とむき出しになっていました。殺風景で、荒れ果てた土地でした。その真ん中に、ギュミルの巨大な館がそびえていました。
「おい、牧童さん。教えてくれないか。どうすればゲルドの館に入れるか」
スキールニルが側の牧童に聞きましたが、牧童はそっけなく答えます。
「あんたは死ぬように運命づけられているのか?それとももう死んでいるのかね?あんたがギュミルの娘と話せる手立てなどないよ。いつまでもな」
牧童が助けるつもりなどないと分かったので、スキールニルは大声で怒鳴りました。
「進まねばならん者は、いくじなくじっとしてしているより、恐れ知らずに何かするほうがいいのさ。おれの命の長さは決まっているし、死ぬ日もとっくに定められているのだからな」
スキールニル、ゲルドを脅しまくる
スキールニルはその後、「曲者だ!」と出てきたゲルドの兄さんたちを、けちょんけちょんに叩き斬ってしまいます!
大乱闘になったので、その声は館の中のゲルドの耳にも届きました。ゲルドは驚いて召使に聞きます。
「まあ、何なの。あのやかましい声は。家じゅうが揺れるようだわ」
「あれは一人の男がやってきたのです。今、馬から降りたところです」
「ではその方を出迎えなさい。そして蜜酒でもてなすのです。でも、その訪問者がお兄様を殺した男だと怖いわ」
スキールニルはギュミルの館にうまうまと潜り込みましたが、ゲルドの態度は冷ややかでした。
「あなたは妖精?それとも神?どうやって炎を超えてこの館までいらっしゃいましたの?」
「わたしは妖精でも神でもありませんよ。でも炎を超えてきたことは確かですね」
スキールニルは外套のポケットからイドゥンのリンゴを(食べると歳をとらなくなるリンゴ)取り出して
「これをご覧なさい。これは神々の青春のリンゴです。永遠の若さを約束するこのリンゴを11個持ってきました。これはあなたのものですよ。フレイにあなたの愛を捧げると約束してくれたら差し上げましょう」
「いりませんよ。青春の林檎でわたしの愛を買うことはできませんよ。フレイでも誰でも、わたしと暮らすことはできません」
スキールニルはめげません。
「これをご覧なさい。これはドラウプニルという腕輪です。これは9夜ごとに同じ重さの腕輪を8つ滴らせるのですよ。これはあなたのものですよ。フレイに愛を約束してくれればね」
「そんな物は欲しくありません。館には十分な黄金がありますもの。愛で黄金を買うほど困ってはいませんわ」
ゲルドが氷より冷たいので、スキールニルは内心かなり焦ってきましたが、それでもニコニコと笑顔を絶やさずに
「これをご覧なさい。この輝く剣が目に入りませんか。フレイの妻になることを承知しないなら、容赦なくその首を切り落としますよ」
「力ずくでの結婚の申し出を受ける気はありませんよ。ここにわたしの父がおれば、あなたなど簡単に追い出してしまうでしょうよ」
スキールニル、かなり追い詰められてます!
スキールニル、ついに呪いをかける
「この女、ヤバいな……。このままじゃフレイのところにお持ち帰りできないぞ」
と、気が気じゃないスキールニル、ゲルドがあまりに思い通りにならないため、ついに最終手段に!
彼は魔法の杖を手に持っており、おもむろにその杖を持ち上げました。そして呪いの言葉を唱え始めたのです。
「お嬢様。この魔法の杖であなたを打って、わたしはあなたを従わせよう。あなたはもう決して誰にも会えず、誰にも話しかけることのできぬ場所へ行くのだ。
あなたは天の果ての鷲の丘に座り、一日中冥界をのぞき込むことになりますよ。そしてすべての食べ物は蛇よりももっとおぞましいものに見えるようになる。
外に出たら人前に恥をさらされるがよい。あなたはわたしたちをぞっとさせる、異様なものになるのだ。霧の巨人フリームニルだって、あきれてあなたを見るだろう。神々の番人よりももっと知られるようになる。
狂気と悲嘆と束縛と苦悩があなたに付きまといくるしめるように。いくらもがいて向きを変えても、宿命から逃れらればしないのだ。まあ、お座りなさいよ。つらい難儀と倍する苦悩をお話しするから。
巨人の館では怪物があなたを苦しめる。霜の巨人のところへ、あなたは嫌でも足を引きずって行かなければならない。何の喜びも当てもなくね。
頭が三つある巨人と、いつも暮らさなくてはなりませんぞ。それとも独身のままでいるかだ。決して、ただの一度も愛のある夫と過ごすことはできませんぞ。願わくば肉欲があなたを捕まえるように!絶望があなたを弱らせるように!
ご覧。わたしのこの杖を。わたしは森へ行き、雫のたれている暗い森の中でこの魔法の杖を見つけたのだ。
神々の王オーディンはあなたにご立腹だ。フレイもあなたを憎むだろう。ゲルド、最悪の女よ、あなたは神々の激しい怒りを買ったのですぞ。
巨人ども、お聞き!霜の巨人ども、お聞き!スットゥング(そういう名前の巨人)の子らよ、お聞き!そしてアースガルドの神々よ、わたしの言うことを聞かれよ!わたしはこの女がどんな男とも会うことを禁じる。どんな男とも楽しむことを禁じる。
霜の経帷子を着て、地価の死者の国に住む巨人フリームグリームニルがあなたを楽しむ相手だ。ユグドラシルの樹の根元で、汚らしい死体たちがあなたに山羊の小便を飲ませるだろう。あなたがどんなに望んでも、それがあなたの飲み物なのだ。これがわたしの呪いである!
ゲルド、わたしはあなたに病気のルーン(古代文字)と、ほかに肉欲、狂気、不安の三つのルーンを刻んだ。でももし必要があれば、わたしは自分で彫った文字を削って消すこともできるのですよ」
この恐ろしすぎるスキールニルの呪いを聞くうち、ゲルドは恐怖で金縛り状態に!やがて震えだし、しくしくと泣きながらクリスタルの盃を差し出して、
「お客様、ようこそいらっしゃいました。祝福を受けてください。古い蜜酒に満ちた水晶の盃を受けてください。ああ、それにしても、わたしが神の一員を愛すると誓うなんて、よもやそんなことはあるまいと思っていたのに!」
はっきり言って脅迫です。これで幸せな夫婦関係が築けるのでしょうか……。不安なところですね。
「馬で家に帰る前に、聞いておきたいものです。いつあなたはニヨルドの息子(フレイ)にお会いになりますか?」
「バリという静かな森で。9夜たったら、ゲルドはニヨルドの息子にわたくしを捧げますわ」
フレイ、浮かれまくる
かくして、スキールニルは急いで帰宅!
フレイは眠らずに待っていて、スキールニルの姿を認めると、すっ飛んできました。
「スキールニル!馬から鞍を外す前に話してくれ!ヨーツンヘイムから運んできたのは喜びか、苦しみか?」
「バリという静かな森で、9夜の後にゲルドは自らをあなたに捧げるでしょう」
フレイは大声で叫びました。
「一夜は長し、二夜はさらに長し。三夜をいかに辛抱せん。待ちわびる半夜がひと月より長く思われる」
さて、こうしたわけで、フレイは勝利の剣をスキールニルにあげちゃったのでした!
この後、美女ゲルドをうまうまして、しばらくはフレイは満足だったのですが、いざラグナロクがやってきた時、激しく後悔することになります。
ラグナロクで世界を焼き尽くして言った炎の巨人スルトは、フレイの勝利の剣以外では斬ることができないからです。フレイはしかたなく、鹿の角を振り回して戦わなければなりませんでした。
で、肝心の勝利の剣を持ってるスキールニルがどうしたかといいますと……スキールニルのその後は全く不明です。この物語の中ではフレイより主役を張ってたのに……。
「勝利の剣を持ったまま、行方不明になった」とも言われてます(^^;)
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