【ケルト神話】ぶっちゃけ無意味!ケルトのルール誓約(ゲッシュ)

2020年4月8日

ケルト神話を理解するには避けて通れないルール、誓約(ゲッシュ)。ゲームや小説でも時々出てきますね! ここでは、「ゲッシュっていったい何なの?」という素朴な疑問にお答えします!

ゲッシュとは、「こういうことはしちゃいけない」というタブーを自分で作って、それを几帳面に守るという約束です。当時のケルト人は、ゲッシュを破ったら神々に呪われると思っていました。

ケルトの戦士たちはこのゲッシュを「自分が破ってはならないルール」として守っており、このルールを戦争に使ったり、恋愛で利用されたりして散々な目にあっています。

神話では「こういうゲッシュを課していたから、こんな申し出を断れなかった」とか、「こんなゲッシュがあったから戦争で誰も歯が立たなかった」とか、そんなエピソードが目白押しです。

このルールを理解すれば、ケルト神話が3倍くらいは面白くなりますよ!(ビミョーな数値ですが)

このページでは、ケルトの英雄クーフーリン、ディルムッド、その他大勢の戦士たちが守ったゲッシュを一挙公開します!

クーフーリンのゲッシュ!「ナニコレ」な無茶ぶり!

クーフーリンは、光の神ルーの息子であり、(母親は人間なので半神ですね)赤枝の騎士団という王様直属の騎士団のリーダー。生涯、魔女メイヴ率いる軍隊と戦い続け、国を守った英雄です。

クーフーリンは無茶苦茶いっぱいゲッシュを作った人でした。ここではクーフーリンが作ったアホすぎるゲッシュを紹介。

自分に課したゲッシュ

クーフーリンの名前の由来は「クランの犬を殺した奴」という意味。それでクーフーリンは「犬を食べちゃだめ」というゲッシュを自分に課していました。

ハッキリ言って、その誓いを立てることで何のメリットがあるのか分からないですね。

クーフーリンは死ぬ前に魔女に騙されて犬の肉を口にしてしまいます。でも、死んだのは槍に刺されたことが原因。ゲッシュを破ったことでそういう運命になったのかもしれませんが、何とも言えないですね。

他人に課したゲッシュ

ゲッシュは自分だけでなく、他人にも勝手に課すことができました。このゲッシュを破ると、悪いことが起きるとか、ものすごく不名誉になるとか信じられていたので、勝手にゲッシュを決められても無視するわけにはいきませんでした。ものすごく縛りのキツイ迷信ですね。

クーフーリンは女王メイヴ(メイヴは恐ろしい魔女にして、隣国の女王でした)との戦争で、このゲッシュを使いまくり。

・片方の足と手と目だけを使って、樫(かし)の枝を折り曲げて輪を作らなければ、この場所を通ってはいけない。

・4頭の馬の不備が刺さった枝を、浅瀬から片方の手の指だけで引き抜くことができなければ、この浅瀬を渡ってはいけない。

こうした「どうやったらこんなバカっぽいことが考え付くの?」というゲッシュを大量生産して、敵に勝手に課します。(敵がやってきそうな場所に、オガム文字で書いておくのです)クーフーリンは超人だからできますが、敵は誰一人できなかったので足止めされてしまうのでした。

例えば、「片方の足と手と目だけを使って~」というゲッシュのエピソード。

メイヴの軍勢が、クーフーリンの国アルスターへ向かっているとき、道にある白い墓石の柱に、樫の枝で作った輪っかが下がっていました。そこにオガム文字で何か刻んであるので読んでみますと、「片方の足と手と目だけを使って、樫(かし)の枝を折り曲げて輪を作らなければ、この場所を通ってはいけない。クーフーリンより」とあるのでした。

勝手に作られたゲッシュでも、やらなきゃならないのが当時のルール。メイヴ軍はみんなでチャレンジしますが、そんな器用な真似は誰もできなかったのでした。

ついにブチ切れたメイヴ軍。「こんなことできるか!無視して先へ進むぞ!」と、ゲッシュを破って突き進みました。すると、森の中で道に迷い、一晩中悪霊にとりつかれてビビりまくりながら夜を明かしたのでした。

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ディルムッドのゲッシュ。最低な女に徹底的に利用される

ケルト神話の悲恋の中では、かなり有名な「ディルムッドとグラーニャ」(覚えにくい名前ですみません)。「悲恋」と言っても、悲しいのはディルムッドだけでグラーニャは全然かわいそうではないのですが……。

このディルムッドも、自分に課したゲッシュに振り回された人物です。

ディルムッドは「ケルト神話のアドニス」と言われるほど、超美形の騎士!歯並びがきれいで、一目見るとどんな女も忘れられなくなるホクロの持ち主(ここが意味不明)でした。彼はフィアナ騎士団の騎士だったのですが、こともあろうに騎士団のリーダー、フィン・マクールの婚約者グラーニャから横恋慕されてしまいます。

フィン・マクールはクーフーリンの後に騎士団のリーダーになった英雄。(フィアナ騎士団といいます)フィン・マクールの部下には大勢の騎士たちがいますが、ディルムッドはその中でいちばん美形だったそうです。

このグラーニャ、ものすごく強気で自由すぎる精神の持ち主。フィン・マクールと結婚してその披露宴パーティーでディルムッドに一目ぼれ。いきなりディルムッドに「今夜、わたしをこの城から連れて逃げることをあなたのゲッシュにします」と宣言。一方ディルムッドは「ご婦人からの申し出を断ってはいけない」というゲッシュを自分に課していました。

ディルムッドはグラーニャなんか愛していなかったし、リーダーのフィン・マクールを尊敬していたので「そんなの嫌だ……」と思ったのですが、ゲッシュを破ると死に至ることもあります。胸の張り裂ける思いでグラーニャを連れて逃げたのでした。

もう一人かわいそうな人物、フィン・マクールはもちろん激怒。その後いろいろあって、ディルムッドを罠にはめて猪に殺させたのでした。ディルムッドは「猪を殺しちゃダメ」というゲッシュを持っていることを、フィン・マクールは知っていました。猪と戦いことのできないディルムッドが1人で歩いているところへ、狂った猪を放ったフィン・マクール。ディルムッドはたけり狂う猪に追い回され、重傷を負って死んでしまったのでした。

以上、ゲッシュにはめられまくりのディルムッドでした。
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いろんな戦士の意味不明なゲッシュ

他にも意味不明なゲッシュはいろいろ。

・三匹の赤い馬についていってはいけない。

・鳥をうってはいけない。

・宴会の招待を断ってはいけない。

・ターラ(地名)を右回りしてはいけない。

・九日目の夜に外に出てはいけない。

日本人には、理解に苦しみますね。でも戦士たちはみんな律義に守っています。例えば「宴会の招待を断ってはいけない」はウシュナハ兄弟のゲッシュですが、駆け落ち中で逃げてる最中なのに宴会に招待された兄弟。急いでいるのにちゃんと出席。それで殺されちゃったのでした。

まとめ

ゲッシュとは「ケルトの騎士たちに特有な繋縛(けいばく)であり、呪符であり、禁制であり、禁厭であり、不思議な力を持つ差し止めである。もしこれに違反すれば、不幸を招きついには死ぬようなこともある」と当時の辞書に書いてあります。

一見バカっぽいのですが、騎士たちにとっては神聖な掟であり、それを破ると死ぬかもしれないほどの不幸に見舞われると考えられていました。

特に当時の恋物語は、女が勝手に「わたしを連れて逃げるのよ」とか「わたしを愛するのよ」とか、勝手にゲッシュを押し付けることおびただしいです。ゲッシュのルールを知っておくと、これらの話が分かりやすいですね。
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