【ケルト神話】フィン・マクールとフィアナ騎士団
【アイキャッチ画像はアイルランドのダブリン城】
フィン・マクールと知恵の鮭
クーフーリンが活躍した時代から、およそ300年後。赤枝の騎士団も、「フィアナ騎士団」に変わっていました。このフィアナ騎士団の一人、クールはマーナという妻がいました。あるとき、クールは戦死し、悲しみに暮れたマーナは森に隠れてひっそりと男の子を生みます。この子が、のちのフィン・マクールなのです。男の子は金髪で、あまりにも白い肌をしていました。フィン(白い)という名は、ここからきています。マーナは他国の王と再婚したため、フィン・マクールは幼くして母と別れます。
母を失ったフィン・マクール。彼はドルイド僧の弟子になりました。ドルイド僧とは、神官であり、学者でもあります。
フィン・マクールの師匠のドルイド僧は、ボイン河に住む「知恵の鮭」を、7年の年月にわたって狙っていました。この鮭は、河に落ちてくるハシバミの実(ハシバミは神聖で、知恵の実がなるのです)を食べているため、その身を食べると世界のあらゆる知恵を手に入れることができるのです。
このドルイド僧は、必死の努力の末、やっと鮭を捕まえてウキウキとフィン・マクールに言いつけました。「この鮭を焼いてきてくれ。ただし、決して食べるんじゃないぞ」フィン・マクールは素直に言いつけを守り、鮭を串にさして焼き始めます。ところが、親指にやけどをして思わず指を口に入れました。と、みるみる顔つきが変わって、尊い知恵を宿したものとなったのです。
鮭を持ってきたフィン・マクールの顔を見たドルイド僧は、一目で顔つきの変化に気がつきました。「鮭を食べたな、フィン・マクール。この鮭はお前が食べるがよい。そしてすぐにここを去れ。お前に、これ以上教えることはもう何もない」
こうして、フィン・マクールは世界のあらゆる知恵を身に着けたのでした。以後、親指を口にくわえるとアイディアがひらめくようになったそうです。
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フィン・マクールの妖怪退治
ドルイド僧と別れたフィン・マクールは、父親クールと同じ騎士となるべく、当時アイルランドを治めていたコーマック・マックアート王の元へ行きます。王は賢いフィン・マクールをすぐに気に入り、フィアナ騎士団に取り立てます。
手柄を立てる機会は、すぐに訪れました。ターラという町で、夜な夜な妖怪が現れるようになったのです。その妖怪は竪琴をかき鳴らし、その美しい音色で人々が眠り込んでしまうと、ターラの町に火をかけるのでした。フィン・マクールはすぐに妖怪退治に出かけます。すると、父クールの従者であった老人がやってきて、フィン・マクールを呼び止めました。
「あなたは賢く、武勇もあるが、それだけでは妖怪に勝てない。この槍を持っていきなさい」こう言って、魔法の槍を渡したのです。この槍は、青銅と、アラビアの黄金で作られていました。この穂先を額に当てると、全身に力がみなぎり、魔術が通じなくなるのです。フィン・マクールは礼を言って、この武器を受け取りました。
夜になり、妖怪が現れて竪琴をかき鳴らします。フィン・マクールはすかさず、槍の穂先を額に当てました。他の人々は音を聞いたとたんに、竪琴の魔力で眠ってしまいますが、槍に守られたフィン・マクールには通じません。フィン・マクールは猛烈な勢いで妖怪を追いかけ、一刀のうちに首を切り落としてしまいました。
この手柄により、フィン・マクールはフィアナ騎士団のリーダーに取り立てられました。以後、フィアナ騎士団はフィン・マクールの元で結束を固め、繁栄しました。フィン・マクールは誰に対しても公正な態度で、一般の人にも寛大で金銀を惜しまず分け与えたと言われています。
当時、蓄財は騎士にとって卑しいことだと思われていました。蓄財をするということは、今後のために金銀を備えるということ。つまり命を惜しんでいるということと同じです。戦いのために生きる騎士ならば、命を惜しんではならないのです。ですから、騎士は金銀をもらったら、それを惜しまず周りの人に分け与えることが理想の姿とされていました。フィン・マクールのこうした姿は、当時の騎士の理想像と言えるでしょう。
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