クーフーリン神話あらすじまとめ。fgoにも登場!

2025年5月16日

ケルト神話の大英雄クーフーリン!神話系ゲームで大活躍。とっても人気者です。

漫画でも、むか~し山岸涼子の作品に出てきましたよ。

↓この表紙の人です。

おお……!何と言いますか、性を超越した二枚目ですね。どんな活躍をしたのか気になるところ……。

クーフーリンはケルト神話初期の、騎士団のリーダー。悪と戦うカッコいい騎士!でも、その物語の内容は、あまり知られていませんよね。このページでは、クーフーリンの生涯をざっくりまとめてお伝えします!これを読めば、あなたもケルト通を名乗れること間違いなしです(^^)

ちなみに、字の本ではこちらがおススメ。サトクリフの本は間違いがありません!

クーフーリンってこんな見た目

・黒髪(ちょい長め)

・背が低い

・浅黒い

・緋色のマントを金の留め金でとめてる

・女の子みたいに華奢

結構意外ですが、クーフーリンは小柄です!

ゲームだとこんなにたくましいのに……↓

「最高の英雄」だから背が高くてガッシリ、というイメージを持ってしまいますが、ホントは小柄で、しかも華奢!他の同い年の騎士たちと比べても小さくて、「ちび犬」なんて呼ばれることも。神話のクーフーリンは、山岸涼子の絵と、だいぶ違いますね……。サトクリフの本の表紙の方が神話に近いです。(チャチいけど)

クーフーリン自身、結構気にしてるみたいで、「ちび」とからかわれると「ちび犬でも噛みつくことは知ってるぜ!」と掴みかかって、相手をボコボコにします。かな~り短気です。

普段はちっちゃくて華奢で可愛いですが、いざ戦闘が始まると、二重人格みたいに別人に!髪の毛逆立て、すさまじい怒声を上げながら敵に突っ込んでいきます。このギャップで女性陣はメロメロに!女の子はもちろん、人妻までクーフーリンに夢中になってしまうという有様でした。

クーフーリン誕生!でもいきなり死んじゃう。

昔、アイルランドが5つの国に分かれていたころ。アルスターの土地はコノール王が治めていました。このコノール王の妹がデヒテラ。美人です。ある時、王様と姫は「妖精の丘」と呼ばれる丘に出かけました。

そこには一軒の家があって、王と姫は一晩そこに泊まりました。ところがその晩、事件が!この家の奥さんは身重だったんですが、「わあ~っ!お産が始まる!」と、ヘルプを求めてきたのです。

デヒテラ姫は親切だったので「大丈夫よ!」とお産の手伝い。無事、男の子が生まれてホッと一息。

ところが次の朝、またしても怪事件が!王と姫が目を覚ましたら、家も夫婦も、煙のように消えてしまっていたのです!ギャンギャン泣いてる赤ん坊だけが姫の手元に残って、実の親はまさかの夜逃げ!(しかも家ごと)

捨ててくわけにもいかないので、デヒテラは男の子を自分の子として可愛がります。しかし、不幸なことにしばらくして男の子は死んじゃったのでした。

死んじゃったクーフーリン。でもすぐに復活!

子供に死なれた姫は悲しみ、一晩中泣き明かしました。泣きまくった姫はやがて「あー、のど渇いた」と、一杯の水を飲みました。

が、このとき、小さな虫がコップの中に入っていたんですね。しかも、生きたまんま。このことに姫は全く気づきませんでした。で、姫は知らないうちに虫を踊り食い(踊り飲み?)してしまったんです。

その夜、姫は夢を見ます。太陽の神ルーが、姫に語りかけました。

「デヒテラよ。そなたが可愛がっていた子供は、わたしの子だ。今、子供はお前の子宮の中にいる。やがて月満ちてお前は子供を産むだろう。産まれたら、セタンタと名付け、育てよ」

こうして生まれたのが、太陽神の子セタンタ彼は成長し、クーフーリンと呼ばれることになります。なんだか聖母マリアの処女懐胎みたいな話ですが、虫が絡んでるのがキリスト教と違うところ。姫もまさか、虫で妊娠するとは思ってもみなかったことでしょう……。

さて、セタンタが生まれたとき、ドルイド僧がやってきて予言を残しました。

「この子はやがて、人々の称賛を得るだろう。あらゆる戦士、あらゆる王、あらゆる聖者が、この子の行った良いことを語り継ぐだろう。この子はこの世の悪と戦い、人の起こす破壊や争いを解決に導くことだろう。だが、こめかみに白髪の一本すら数えることなく、命を終える定めだろう

こうして一回死んで生まれ変わったクーフーリン。ケルト神話では「一度死んだけどよみがえった」「一度生まれたけれど、生まれる場所を間違えたので、正しいところに生まれ変わった」というエピソードはよくあるパターンです。

「生まれ変わった」というのは、「だからこそ、この人は特別なのだ」という証だったんですね。

クーフーリンと名付けられる

セタンタが少年になったころ、姫のお兄さんコノール王は、クランという金持ちの家で開かれる宴に出かけました。

王は「お前も一緒に楽しもうぜ!」とセタンタをお誘い。でもセタンタはちょうど友達とボール遊びしてたので、「試合が終わり次第、すぐに参ります」と答えました。

ところでこのパーティーの主催者、クラン家。庭に超狂暴な番犬を飼っていました。

この番犬、犬なのに大きさは子牛レベル。パワフルだけど頭は悪かったみたいで、お客とドロボーの区別がつかなくて、近づくものは片っぱしからかみ殺してしまうというヤベーやつです。

さて、このクラン家の宴で楽しんでたコノール王。歌って踊って、お酒が回ってイイ感じになった頃、突然庭から、犬のけたたましい叫び声が聞こえてきました。

「アッ!ヤバい!セタンタが後から来るのを忘れてた!もしや、犬に食べられちゃったのでは?」

と、真っ青になって外に飛び出しました。すると、そこには元気いっぱいのセタンタ。足元にはズタボロになった犬の死骸が転がっていたのです。

「番犬を殺してしまって申し訳ない。この犬の子を、俺が預かって立派に育てましょう。犬が育つまでは、俺が犬の代わりにこの家の番をつとめましょう」

と、セタンタはクランに謝罪。コノール王をはじめ、人々は「おお!まだ子供なのに、あの犬を殺すなんて超人だぜ!」と感激。そして以後、セタンタはクーフーリン(クランの猛犬)と呼ばれるようになったのです。(つまりクランの犬男くんって意味ですね)

この名前を死ぬまで使ったため、クーフーリンは「アルスターの猛犬」とか、ただ単に「猛犬」とか、「ちび犬」とか、とにかく「犬」「犬」と呼ばれ続けます。クーフーリン物語に「犬」という単語が出てきたら、イコールクーフーリンで間違いないですね!

ちなみに、お酒の話がちょっと出ましたが、この時代の人が飲んでたのは蜂蜜酒(ミード)がほとんど!クーフーリンや、後で出てくる魔女メイヴもしこたま飲んでます。

↓実はクーフーリンの名前の蜂蜜酒があります!ぜひ飲んでみてね(^-^)

 

クーフーリン、影の国で武者修行。スカサハの弟子になる

立派な青年に成長したクーフーリンは、一人前の戦士となるために「影の国」というこの世の果ての土地へ旅立ちます。そこには女戦士スカサハの城があり、彼女の弟子となれば、武術と魔術を学ぶことができるのです。つまり武者修行ですね。

いくつもの危機を乗り越え、クーフーリンは女戦士の城へ出発!城の周りには、首の刺さった柵がいくつもズラリ。全部、スカサハの弟子になろうとして失敗した若者たちの首でした。実は古代ケルトには首狩りの習慣があり、戦いの勝者は負けた者の首を取り、家の前に飾っていたというから恐ろしいですね……。

クーフーリンが城へ足を運ぶと、無数の怪物たちが現れて、クーフーリンに突撃!しかし、クーフーリンはビビりません!バッサバッサと怪物を斬り倒し、どうどうとスカサハの元へ。この若者の勇気に驚いたスカサハは、ついに弟子入りを許可したのでした。

影の国で一大決戦!女を手に入れてあっさり捨てたクーフーリン

さて、クーフーリンがスカサハの弟子になって少し経った頃、スカサハにピンチが!スカサハの城の隣には、アイフェというこれまた女戦士の城があったのですが、このアイフェがいきなり攻め込んできたのです!

スカサハは超慌てました。戦士の数も、領土の広さも、アイフェの方が圧倒的に大きいのです。スカサハは自分の戦士たちだけじゃなくて、クーフーリンをはじめ弟子にしている少年たちまで連れて立ち向かうことに……。

第一日目、両軍入り乱れて大乱戦!この戦いで、スカサハは腕に大けがを負ってしまいました。その晩、アイフェの陣から使者がやって来て、

これ以上戦っても、両軍が傷つくだけです。どうです、一騎討ちで決めませんか。それぞれの代表戦士が戦って、勝敗を決めるというのは?

と言ってきましたが、スカサハは困り果てるばかり……。

どうしよう。向こうはアイフェが出るだろうけど、わたしはこの腕で剣を持てないし……

すると、すかさず意見したのがクーフーリン!

師匠、安心しなさい。俺が出ます。これまでの修行の成果を試したいし。ただし、一つだけ教えてください。アイフェが一番大事にしてるものって何です?

アイフェの大事なものは、自分の戦車と馬だが……?

これを聞いて、高笑いしながら一騎討ちに臨んだクーフーリン。アイフェ相手に、槍で戦い、剣で戦い、なかなか決着はつきません。両者、だんだん疲れてきた、その時!

ああ!後ろを見ろ、アイフェ!あんたの戦車が馬ごと、がけから落ちるぞ!

小学生レベルのおどしですが、アイフェは「ええっ!」と仰天。その隙に、クーフーリンはアイフェに躍りかかって生け捕ってしまいました。やることがセコイです……。

クーフーリンはアイフェをスカサハの陣屋まで連れていき、「もう二度とスカサハの領土に攻め込まない」と誓わせました。ここまでは良かったのですが——ついでに、よくよく見るとアイフェが美女だったので、ちゃっかりとおいしい関係に……。

このアイフェが、クーフーリンの最初の女でした。クーフーリンはけっこう惚れっぽくて、この後も何人かの女と関係を持ちます(奥さんをもらった後も)。ただし、食うだけ食ったら、ケロッと忘れておうちに帰るという、よく言えば後腐れないですが、悪く言えばいい加減な奴でした。アイフェともほんの数日でお別れしたのですが、別れる時

もし妊娠してて、息子が出来たらコンラと名付けて、この指輪をやってくれ

と、金の指輪を一個渡してバイバイしました。アイフェはたいそう悲しがったそうですが、当然ですね……(^^;)

↓ケルトの指輪ってこんなの

ところで、この時クーフーリンは、もしかしたら産まれるかもしれない息子コンラに、3つのゲッシュ(絶対に破ってはならないルール)を課しました

・成長して俺のところに来るときは、途中で名を聞かれても答えてはいけない。

・誰に命令されても、進む方向を変えてはならない。

・戦いを挑まれたら、決して断ってはならない。

アイフェは「もし息子が産まれたら、このゲッシュを必ず伝える」と約束。なんでクーフーリンがこんなバカバカしい約束をさせたのかは謎ですが、このゲッシュのせいで、後にとんでもない悲劇が起きることになります。

それから数年。クーフーリンは武術と魔術の修行に励み、すべての技を習得。スカサハは、かわいい弟子に「免許皆伝じゃ!最後にこれを授ける!」と、魔法の槍ゲイ・ボルグを彼に渡しました。これは投げると槍先から無数の矢が放たれるという不思議な武器で、その後クーフーリンの愛用の武器になったのでした。

いよいよスカサハの城から出ていく時、悲しい別れが一つありました。

このスカサハの城には、何人かの少年たちが武術の弟子として寝泊まりしていたのですが、その中にフェルディアという金髪で青い目の、非常に背の高い青年がいて、クーフーリンは彼と親友同士になっていたのです。二人は別れ際、互いに肩を抱き合って

お前と俺とは、一つの盃を分け合い、一つの床で寝た仲じゃないか。コナハト(フェルディアの国の名前)へ来て、コナハトの戦士になるつもりはないか

お前こそ、アルスターの戦士になる気はないか。俺よりもコナハトを選ぶのか

と、互いの血をすすり、命の尽きるまでの忠誠を誓いあい、まるで恋人同士の別れ!妊娠の可能性があるアイフェとはアッサリ別れたくせに、えらい違いです……。

クーフーリンは実際、女にとっても冷たくて、男の友情にはひじょ~に厚い奴です。女との恋の目的は「食うだけ」って感じですね。

さて、とにもかくにも立派な英雄となったクーフーリン。帰国するとコノール王の護衛を務める「赤枝の騎士団」に迎えられます。それからのクーフーリンは、騎士団を率いての数々の戦いに勝ち抜いていくことになるのです!

【関連記事】ぶっちゃけ無意味!ケルトのルール誓約(ゲッシュ)

赤枝の騎士団と魔女メイヴ。戦いの幕開け

赤枝の騎士団のリーダーとなったクーフーリン。美しい妻をもらって幸福に暮らしていましたが、平和は長続きしません。あるとき、アルスターの地に原因不明の疫病が流行り出しました。クーフーリンの部下たちも次々に倒れ、クーフーリンは心を痛めます。(この疫病はアルスターに恨みのある奴の呪いだという伝説も)

弱り目にたたり目。よりにもよってこんな時に、隣国の女王メイヴがアルスターに攻め込んできます。なんでいきなり攻め込んできたかというと、アルスターにいる美しい一頭の牛が欲しかったから」だそうで。……現代人の感覚からすると、「なんで牛一頭のために……」と思ってしまいますが、古代人の感覚では真剣に欲しいので仕方ありません(古代では牛が一番の財産だしね)。

メイヴ女王は、7人の恐ろしい息子たちの母であり、強力な魔女でもありました。その姿は、波打つ黄金の蓬髪。金の大きなブローチで緑のマントを留め、戦車に乗って戦場をかけるという、ジャンヌダルクのようないでたち。魔女メイヴは、自分の軍勢と息子たちの軍勢、その上巨人たちまで引き連れて、クーフーリンの赤枝の騎士団目がけて進軍します!

クーフーリンは疫病による劣勢の中、知恵を絞って戦うことに。まともに戦えるのが、ほぼ自分一人しかいなかったため、ゲリラ戦を繰り返すことに決定。メイヴ軍が来るのを待って、投石機で無数の岩を降らせたり、いきなり奇襲をかけて、さんざんメイヴ軍をひっかきまわしたりと、神出鬼没の活躍。

このゲリラ戦によりメイヴ軍は1日に100人もの死者を出しました。クーフーリンの姿が現れるだけで、メイヴ軍は

アルスターの猛犬だ!地獄の使者だ!

と、パニック状態に陥るほど。クーフーリン、この時まだ17歳だったというから驚き!メイヴはこの賢く雄々しい若者に心底恐れおののき、また強く心を惹かれました。

女たちが誘惑しまくり。でも突っぱねるクーフーリン。

クーフーリンの強さに目を付けたメイヴ、何とか自分に寝返らせたいと願い、様々な誘いをかけます。黄金や領土、およそあらゆるものをエサにリクルートの嵐!しかし、どんな条件を出されても、クーフーリンはガン無視。ことごとく誘惑をはねつけて、コノール王への忠誠を守り通します。

クーフーリンはケルト神話の中で、ピカイチの強さ、賢さ、魔術の巧みさを持っていますが、彼の最大の特徴は、この潔癖なまでの騎士道精神です!どんなに誘惑されても、絶対に悪に靡きません。どんなに忠実な騎士でも、美女に誘われると靡くことがありますが、クーフーリンはどんな女の誘いも突っぱねる、鉄の心臓の持ち主なのです(まだ十代なのに)。

メイヴが最後に出した条件、「1日に、両軍1人だけの戦士を出して戦う」という一騎打ちの提案のみ、クーフーリンは承諾します。そして、その戦いはすべてクーフーリンの勝利となるのでした。この勝負は全部クーフーリンが出たし、メイヴ軍の中に、クーフーリンにかなう戦士がいなかったからですね。

さて、クーフーリンに夢中になった女は、メイヴだけではありません。女神までが彼に心惹かれます。

死と破壊の女神モリグー。彼女はクーフーリンの戦いぶりに心奪われ、ある晩、赤毛の美女の姿になって夜這いに来ます。しかし根が潔癖なクーフーリン、女神の誘惑をきっぱりと断るのでした。しかも、この時の断りのセリフが振るってます。

オレは毎日戦って疲れてるんだ。女の相手なんかしてられないよ。あっち行け

可愛さ余って憎さ100倍。キレたモリグーは「こんな恥をかいたのは初めて!思い知らせてやる!」と、様々な手を使ってクーフーリンの妨害活動に打って出ます。

・牛に変身してクーフーリンに突進
・ウナギに変身、足に巻き付く。
・狼に変身、襲い掛かる。

と、のべつ幕無しに起こる、ヤバすぎる戦術!

最後にモリグーは病気の老婆に変身して、クーフーリンにからみます。するとクーフーリン、これまでの態度が一変。心優しいので、汚い病気の老婆を決して見捨てず、手厚く看護するのでした。この優しさがモリグーの心臓にドストライク古今東西、人間、人外問わず、女性は心優しい男性にヨワイんですね。以後、見返りを求めずクーフーリンの味方になってくれたのでした。

……それにしてもクーフーリン、クセのありすぎる女にばっかり持てたみたいですね。

へとへとになったクーフーリン、三日間お休み。

さて、クーフーリンは毎日毎日、一騎討ちを繰り返し、数えきれないほどメイヴ軍の戦士を倒したのですが、さすがに無数の傷を負い、体力的にも限界に。アルスターのほかの連中はいまだ疫病から立ち直っておらず、クーフーリンは一人で戦い続けなければなりませんでした。しかも、メイヴは卑怯者なので「一騎討ち」の約束を破り、五人、十人と人数を繰りだしてくることも。いかに超人のクーフーリンもキャパオーバーすぎです。

そしてとうとう「もうダメだあ!」となった時、信じられない奇跡が!

何と、クーフーリンの実のお父さん、太陽の神ルーがピカピカ光りながら降臨。

過酷な戦いだったな、わしの猛犬。しばらくはゆっくり休むがいい。わしが代わりに戦ってやろう

こうして、ルーがクーフーリンの姿になって、三日間メイヴ軍を引き受けてくれました。その間、クーフーリンは死んだように爆睡。ルーが秘薬を塗ってくれたので、全身に負っていたケガも完治。

が、この間にアルスターで悲劇が起こります……。

疫病を逃れていた、まだ年端もいかない少年たちが、クーフーリンを手助けすべくメイヴ軍に立ち向かい、全滅してしまったのです!

やがて目を覚ましたクーフーリンが、激戦のあった峡谷へ行ってみると、そこには少年たちのむごたらしい死体の数々が……。

何たることだ!ええいっ、許せん!

クーフーリンは激怒すると、人格が変わってしまいます!黒髪を逆立て、目を血走らせ、絶叫しながら戦車を走らせるもの凄さ!逃げ回るメイヴ軍を追い立て、追い立て、疾風怒濤の攻撃を繰り返し、死体野山を築き上げたのです。この戦いを「ムルテムニーの大虐殺」と言います。

初めて使ったゲイ・ボルグ。親友を惨殺

メイヴ女王の国はコナハトといい、このコナハトには、クーフーリンがスカサハの城で親友の誓いを立てた青年、フェルディアが戦士として仕えていました。クーフーリンは毎日一騎討ちをしながら、

今日はフェルディアが出てきて、戦う羽目になるかも……

と、内心びくびくしていました。そしてついに、その日が来てしまったのです!

「明日はお前がクーフーリンと戦え」

と、メイヴに命じられたフェルディア。「親友と戦うことはできない」「オレはクーフーリンを愛してます」と、何度も女王に逆らうのですが、メイヴは聞く耳持ちません!

お前がクーフーリンと戦わなかったら、フェルディアはコナハトを裏切った、死んでいった戦士たちは命よりも名誉を重んじたのにと、後々まで竪琴引きたちは歌うだろう

こうまで罵倒されて、フェルディアはしぶしぶ一騎討ちの場へ出ることに。

フェルディアの姿を見たクーフーリンは大ショックです。

兄と信じたお前なのに(フェルディアの方が年上)!スカサハの城にいた頃は、どんな時でも肩を並べ、ともに狩りをし、日が暮れれば一つ寝床で眠った仲じゃないか

と、嘆きますが、フェルディアは「もうそのことは言わないでくれ」とはねつけ、二人は戦うことに。

まず一日槍で戦いましたが勝負はつかず、二人はいったん抱き合って戦いをお預けにし、食料を分け合って食べ、一枚の布団で眠りました。

二日目、しつこく戦いましたが、やっぱり勝負はつきません。また昨夜と同じように一緒に食事をして、一緒に眠りました。

三日目、クーフーリンがとうとう泣きます。

何だって女なんかの為に、俺との戦いを請け合ったんだ!あの女が褒美を約束したからか?奴は俺さえ褒美で釣ろうとしたんだぞ!

褒美の為じゃない。俺の名誉を未来永劫おとしめると、メイヴ女王が誓ったんだ

そうか、じゃあお前は、俺より自分の名誉が大事だったんだな!

その日は剣で一日戦いましたが、勝負はつきません。でも前日と違うのは、二人は離れた場所で寝ました。

四日目、これ以上戦ってもらちが明かないと判断したクーフーリン、必殺の槍ゲイ・ボルグを持ち出します。これはスカサハから受け取ったものですが、これまで長い間、クーフーリンは自分の腕だけで戦い続け、この槍に頼ったことはなかったのです。

この日、フェルディアは川の中へクーフーリンを追い詰め、剣でクーフーリンの肩をザックリ。血が飛び散る中、これで最後だと突きまくり、水の中で息の根を止めようとしましたが、とたん、クーフーリンがゲイ・ボルグで盾も鎧も刺し貫き、フェルディアの腹から胸にかけて深くえぐったのです。

フェルディアは「クーフーリン、俺の弟。お前の勝ちだ」と叫んで絶命。クーフーリンはその死骸に取りすがって、「俺はもう立てない……。俺は、俺の兄を殺してしまった……」と嘆きながら、気を失ってしまったのでした。

慌てた御者(戦車の馬の手綱を取る人)が、クーフーリンを担ぎ上げて戦車で運び、敵の目から隠しましたが、その後クーフーリンはしばらく気絶したまんまでした。

お父さんに会いに来たコンラ。いきなり一騎討ち。

魔女メイヴとの戦いは7年に及びました。メイヴの予想とは裏腹に、クーフーリンの軍勢はメイヴを追い詰めていきます。そしてついに、メイヴを生け捕りにしたのです!

メイヴは「もはやこれまで」と覚悟を決めますが、クーフーリンは彼女を逃がします。

「女性を殺すわけにはいかない。いかなる女性も尊ばねばならない」

と、持ち前の騎士の精神を崩さなかったのです。

しかし、この気高い精神が、彼の命取りとなります。邪悪な心を持つメイヴに、彼のやさしさは通用しなかったのです。生け捕りにされた屈辱だけで凝り固まったメイヴは、クーフーリンに恨みを持つ男たちを集め、蛇のように執念深く、クーフーリン暗殺をたくらむことになるのですが、それはもうちょっと後のお話……。

その前に一つ、クーフーリンには劇的な出会いがあります。

親友フェルディアを殺してしまってから、何かと沈みがちだったクーフーリン。数年が経って、ようやく持ち前の明るさを取り戻してきたのですが、そんなある日、アルスターの海岸に、見知らぬ船が一艘たどり着きました。

船に乗っていたのは、誰も見たことがない一人の少年。見事な金髪の持ち主で、投石器と槍を持っていました。が、奇怪なことに、その場にやって来た王や騎士たちが

「お前はどこから来たのか?名は何という?」

と、尋ねられても、「答えるわけにはいかない!」と、頑として口を割らないのです。

始めの内は大人たちも「なあ、ぼうず。名前ぐらいあるだろう?教えろよ。外国から来たんだろ?王様が尋ねてるんだからさ」と、なだめすかしましたが、いっこうに名乗らない少年。ついに王様もキレて、

では言わせるまでだ!

と、騎士たちを差し向けて、力づくで名乗らせようとしました。ところが!この少年、ヤバいくらい強くて、どいつもこいつも尻尾を巻いて逃げ出す有様!青くなった王様はとうとう、

クーフーリンを呼べ!誰も敵わなかったあの少年だが、アルスターの猛犬であれば片づけることが出来よう!

と、馬を飛ばしてクーフーリンを呼んだのでした。

浜辺にやって来たクーフーリン、「ぼうず、お前、どこからやって来た。どこへ行く気だ」と尋ねましたが、やっぱり少年は「言うわけにはいかないんだ。死ぬかもしれないけど、でも言わない」と答えるばかりで、二人は戦うことになります。

しばらくは剣で戦い、次につかみ合って戦いましたが、なかなか勝負がつきません。ついにクーフーリンはゲイ・ボルグを掴んで少年の腹を突き刺し、殺してしまいました。

浜辺に転がった少年を眺めながら、クーフーリンは少年の指に金の指輪がはまっていることに気が付きます。昔、スカサハの城にいた時、女戦士アイフェに渡した指輪です。その時クーフーリンは、「もし息子が産まれて、息子が俺のところに来るときは、3つのゲッシュを課してくれ」と言いました。

・途中で名を聞かれても答えてはいけない。

・誰に命令されても、進む方向を変えてはならない。

・戦いを挑まれたら、決して断ってはならない。

この少年の正体は、クーフーリンの息子コンラで、この3つのゲッシュがあったために、どれほど名を聞かれても答えるわけにはいかなかったのでした。

クーフーリンがゲイ・ボルグを使ったのはこれが最後で、その後2度と使うことはありませんでした。

予言的中。立ったまま死んだクーフーリン

さて、以前クーフーリンによってコテンパンに敗北した女王メイヴ。彼女はクーフーリンに復讐することを、一時たりとも忘れてはいませんでした。

ヤバいくらい殺人を繰り返してるクーフーリンを恨んでいる人間なんて、アイルランド中、掃いて捨てるほどいますので、味方探しには苦労しません。またたく間に大軍を作り上げ、さらに3人の恐るべき魔女もゲット。この魔女、以前クーフーリンに父親を殺された恨みがあったのでした。

この魔女たちの魔力を使い、いよいよクーフーリン暗殺計画の始まりです。

まず、魔女たちはクーフーリンに幻を見せました。アルスターに敵勢が押し寄せ、みるみるうちに味方の軍や女たちが殺されてく幻覚、幻聴で攻め立てたのです。

実は戦争なんて起こってなかったのですが、幻覚に大混乱を起こしたクーフーリンは、

このままではアルスターが滅びる!俺が戦わなくては!

と、錯乱状態になって戦車に飛び乗り、一人だけで進撃。

そこを見計らい、一本の槍が飛んできて、クーフーリンの脇腹をグサリ!

はらわたが戦車の中に飛び散り、血がとめどなく流れました。クーフーリンは死を覚悟しましたが、この後のクーフーリンの行動がかなり衝撃!

何とクーフーリン、戦車の中にボタボタと落っこちたはらわたを一つ残らずかき集め、それをかかえたまま、テクテクと湖まで歩いていきました。それからはらわたを洗濯物みたいにザブザブと洗い、丁寧に腹に戻したのです!

はらわたを残らず戻したクーフーリン、「俺は立ったまま死にたい」と言って、もたれかかるのに適当な場所を探しました。すると手ごろな岩があったので、ロープを用意すると、自分で体を岩にしっかりと固定。それから高らかに笑い、笑いながら息を引き取ったのです。

まとめ

お疲れ様でした!

ケルト神話にはいろいろな英雄が登場しますが、クーフーリンの魅力は何といっても「どんな女の誘惑にも靡かない!」というところでしょうか(食い逃げはするけど)。この潔癖な性格、マンガの「妖精王」にそのまま描かれていますよ。かなり名作。興味あったら読んでね。

でも、クーフーリンのすさまじい戦いぶりとか、友情物語を読みたい人はこっちのサトクリフの本ですね。クーフーリン神話は何種類もあるのですが、この本はうまいことまとめてます。かなりおススメ!

↓他にもいろいろ本を紹介してるページもあるので、詳しく知りたい方はこちら。

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