ヘクトルはトロイア一気高い男!ただしツイてない!

2020年7月17日

トロイア戦争を語る上で、多分一番同情されるのは主人公アキレウスではなく(トロイア戦争を語る叙事詩イリアスでは、アキレウスが主役です)、トロイアの王子ヘクトルでしょう。

トロイア戦争の映画「トロイ」では、ヘクトルはアキレウスをかすませるほどの人気を誇ったそうです。その絶大の人気の秘密は……おそらく、彼が完璧な「貴公子」だからでしょう!

ここでは、ヘクトルの高潔さと、でもツイてなかったその人生を、どこよりも分かりやすく解説します!

あまりにもツイてない……ヘクトルの人生

ヘクトルはトロイアの王プリアモスの長男。御曹子です。血筋も完璧なら、容姿も性格も能力もピカ一。背が高く、彫刻のような顔。物静かで愛情深く、愛妻家。雄々しい彼は戦の場では堂々と戦います。まさにトロイアの民の誇り。誰もがヘクトルを慕ってやみません。

ところが!弟のパリスがあまりにもカスだったのが、ヘクトルの運の尽き……。パリスがスパルタの王妃ヘレネを拉致したのがきっかけで、ギリシャ勢がトロイアへ襲い掛かり、トロイア戦争の幕が切って落とされることに。

ヘクトルは「ヘレネをギリシャへ帰すべきだ」と、冷静に何度も進言。ギリシャが総動員してかかってきたら、トロイアは必ず負けるだろう、と言葉を尽くして説得しますが、努力も虚しく、戦争は始まってしまったのでした。

「戦争が始まった上は、何としてもトロイアを死守しなければ……」

ヘクトルは必死で戦います。その強さはギリシャを震撼させるほどで、幾度もギリシャの陣へ迫りました。が、ギリシャには世界最強の戦士アキレウスがいたのでした。

ヘクトルがいかに頑張っても、アキレウスにはかないません。一騎討の末、ヘクトルは完敗。「せめて死骸はトロイアに返してくれ……」と頼みますが、「駄目だ」と一蹴。その死体は戦車に引きずられて、ボロボロにされてしまったのでした(泣)

ヘクトルの性格は?

ヘクトルは雄々しく勇ましい戦士ですが、アキレウスのように本能そのままの、戦闘を好むタイプではありません。実は彼は戦争が大嫌いです。彼は妻のアンドロマケに

「わたしは勇ましくなるよう、トロイア人の第一線で戦うように学ばねばならなかった」

と語っています。

アイアスやアキレウスと戦うとき、ヘクトルは内心恐ろしくて恐怖に駆られます。アキレウスが迫ってきたときなどは、戦車に乗って、一時逃げ回ったほどでした。しかし、「愛するトロイア、妻や子のために、わたしは戦わなければならない」と勇気を振り絞って戦ったのでした。

ヘクトルは本当は臆病な心を持っていましたが、国や家族への深い愛のために、理性で恐怖を克服し、必死に戦うキャラクターなのです。

これは酷い……。ヘクトルの死体の行方

アキレウスとの一騎討で敗れたヘクトル。彼の死体の扱いは、トロイア戦争の見せ場の一つになっています。

ヘクトル大勘違いの巻

最強の戦士アキレウスは、総大将アガメムノンと大喧嘩して、「もう俺は戦争に出ない」とストライキしてました。これで、ギリシャは大ピンチ。ヘクトルによってどんどん追い詰められることに……。

これに危機を覚えたのが、アキレウスの友人(恋人でもある)パトロクロスという青年。彼はアキレウスの鎧を着て、アキレウスに化け、戦場へ出ました。

「アキレウスが来た!」

と、トロイア勢はアキレウスの鎧を見ただけでビビりまくり。でもヘクトルは怯みません。「わたしがアキレウスを倒す!」と討ってかかり、パトロクロスを倒しました。兜を脱がせて、顔を見たヘクトルは大激怒。

「あッ。騙したな!アキレウスじゃない!ええい、ぬか喜びだった!」

完璧にバカを見たヘクトルは怒りのあまり、パトロクロスの死体を剣でザクザク。ギリシャ勢はパトロクロスの死体を奪い返しましたが、大変無惨な有様でした。

アキレウス、ヘクトルを倒す

親友で恋人のパトロクロスを失い、しかも死体を汚されたアキレウスの恨みは深い!

怒りの形相凄まじく、「ヘクトルはどこだ!出てこい!」と、咆哮あげて迫ってきました。まるで稲妻を背負ったかのような勢い。ヘクトル、これを見て心底怯えます。

どれくらいビビったかと言うと……何とアキレウスから逃げ回って、トロイアの城壁の周りを戦車で3周したほど。

このとき女神アテナが、ヘクトルの弟デイポボスに化けて「兄者、二人でかかればアキレウスを倒せるでしょう。一緒にやりましょう」と声を掛けたので、ヘクトルは「よし、二人なら」と思って、アキレウスと戦う決心をします。

でも、女神は騙しただけなので、次の瞬間、デイポボスの姿は消えてます。

「アッ。騙された」

と慌てたヘクトル、必死にアキレウスに頼みます。

「アキレウスよ、まず取り決めをしておこう。わたしはお前に勝ったとしても、お前の屍に手酷い恥辱を与えることはしない。必ずギリシャ勢に返そう。だからお前もそうしてくれ」

でも、アキレウスはこんな理性的な人間じゃありません。

「憎んでも足りないヘクトルめ。俺に取り決めなど、ふざけたことを言ってくれるな。獅子と人間の間に、誓いなどありはしない」

こう言って、まさに一撃でヘクトルを仕留めてしまいます。

ヘクトル最後の願い

ばったり倒れたヘクトル。アキレウス、嘲笑います。

「愚か者め。お前の死骸は、野犬に食わせてやる。パトロクロスはギリシャ勢が手厚く葬るのだ」

ヘクトル、涙で願います。

「おぬしの膝と両親にかけて頼む……。わたしを犬に食わせるのはやめてくれ。父と母が相応の賠償金を払う。わたしの遺骸は、わたしの家に帰してほしい」

しかしアキレウス、涙など通用しません。

「犬め。わたしの膝だの両親だのにかけて願うのはやめにせよ。いっそこのまま、おぬしを生のまま食ってやれたらどんなによかろう。あれほどの罪を犯したおぬしだからな。お前の頭から野犬を追い払う者は一人もいないぞ。残らず、野犬野鳥が食い尽くすのだ」

「ああ、お前の顔を見れば、どんな人間かよく分かる。お前に願ったのが無理だったのだ……」

こう言って、ヘクトルは死んでしまいます。アキレウスはヘクトルの両足のかかとに穴をあけ、綱を通して戦車に縛り付け、死骸を引きずって陣屋に戻ったのです。

プリアモス王、ヘクトルの死骸を受け取る

ヘクトルが死んで湧き立つギリシャ勢でしたが、パトロクロスを失ったアキレウスの苦しみは止むことがありません。ひたすら涙を流しては、思い出したように外に出て、ヘクトルの死骸を戦車で引きずってボロボロにしては憂さを晴らし続けました。

多分、この時点でヘクトルの死骸はズタボロに……。

そんなある晩、プリアモス王が単身、アキレウスの陣屋にやって来て、涙ながらに言います。

「ああ、アキレウスよ。わたしの息子を返してくれ。お前の父親は、お前が故郷に帰ってくる日を楽しみに待っているだろう。だが、わたしはこの老境にあって、優れた息子を目の前で殺されてしまったのだ」

年老いた王に涙ながらに訴えられて、さしものアキレウスも情け心をおこします。すでに無茶苦茶になっているヘクトルの死骸を荷車に載せて、トロイアへ帰してやったのでした。

ヘクトル関係者

ヘクトルは王子ですから、関係者もいっぱいいるよ。

プリアモス王

お父さんだよ

ヘカベ

お母さんだよ。

パリス

最低すぎる弟だよ。

アンドロマケ

奥さん。子供はアステュアナクス。

アキレウス

ギリシャの戦士。ヘクトルを殺したよ。死体をボロボロにしたよ。

パトロクロス

ヘクトルに殺されちゃった可哀想な人。

アポロン

神様。ヘクトルを可愛がってるよ。

アテナ

神様。デイポボスに化けてヘクトルを騙したよ。

まとめ

長文失礼しました。

ヘクトルは顔も性格も能力も完璧だったのですが……パリスが弟だったのと、敵にアキレウスがいたせいで、あまりにも無惨な最期。可哀想すぎですね……。もし平和な世の中に産まれていたら、最高の人生を歩めたことでしょう。

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