【北欧神話のあらすじ】神々の王オーディン、世界を創造する

北欧神話の一番初めの場面、天地創造はなかなかに衝撃的です。なんと、「殺害」から始まります!
キリスト教や日本神話では、何にもなかった世界に光を作ったとか、島を作ったとか、実に平和的に始まるのですが、北欧神話はいきなり殺しから始まります!
北欧神話はラストも「ラグナロク」で神々が滅びちゃうし、スタートも殺しだし、非常に特殊な神話ですね!
世界の始まり
燃え上がる氷、かみつく火炎。それが生命の始まりでした。
南の方にムスペルと呼ばれる領域があり、そこには猛り狂う炎が輝いていました。
ムスペルには黒い巨人「スルト」が住んでいて、彼は炎の剣を持って座っています。
スルトは世界が始まったその時からそこにいて、いつの日か世界が終わるとき、立ち上がって炎の剣ですべてを焼き尽くすのを待っているのです。
北の方は氷の領域ニヴルヘイムでした。雪で覆われ、その中に一つだけ、凍らない泉がありました。
炎と氷の領域。この間には広いがらんどうの空間ギンヌンガガップがありました。
泉の水は河になって、やがてこのがらんどうの空間に流れていったのです。
そして、そのしたたる水、ムスペルの炎とニヴルヘイムの冷たい大気がぶつかり合って解けた氷から、初めての生命が産まれたのでした。
ユミルとオーディンの誕生
始めて産まれたのは、一人の巨人ユミルでした。
ユミルは霜の巨人で、すべての巨人の父になります。彼の汗や足からぞくぞくと巨人たちが産まれていきました。
ところで素朴な疑問。ユミルは何を食べていたのか?
世界の始まりなので、氷と炎しかなかったはずでは?
それが神話の都合のいいところで、実に都合良く、まったくいつのまにか牝牛アウドムラが存在していまして、ユミルはこの牝牛の乳をごくごく飲んでいたのです。
ではその牝牛は何を食べていたのかというと……これもまったく都合のいいことに、神話の牝牛なのでこの牛は空腹になりません!
でも喉は渇くようで、いつもべろべろと氷をなめていました。
あるとき、牝牛が氷をなめていると、氷の中から最初の神ブーリが出てきました。
何でそんなところにいたの? という気がしますが、神話なので突っ込みは禁止のこと。
北国の万年雪の中からは、よく大昔に死んだ動物が氷づけで出てきますから、古代人はこのことに神秘を感じたのかも?
とにかく氷から勝手に出てきたブーリは、息子ボルを産みます。このボルは、そのころウジャウジャいた巨人の中から嫁を選んで、息子を三人持ちます。
この三兄弟が、オーディン、ヴィリ、ヴェー。そして長男のオーディンが、万物の王になる神なのです。
ちなみに残りの二人はどうなのかというと、この後ほぼ出てこないキャラなのでどうでもいいです。
オーディン、いきなりユミルを殺害!
さて、オーディンたち神様兄弟は、巨人たちが嫌いで「まったく、きったねー奴らだな~。デカいし醜いし、サイテー」と思ってました。
しかも、巨人たちはユミルのワキ汗からウジャウジャ産まれるし、さらに自分たちでもガンガン繁殖して、ネズミかウサちゃんレベルに増えていくので、我慢がなりません!
そこでオーディン、
「よし!殺そう!」
と、決断。
決断すると、オーディンの行動は早いです!イキナリものも言わずユミルに襲い掛かり、グサグサと刺し殺してしまいました!
ユミルはやたらめったらに巨大だったので、血がドバドバ流れて、その血で巨人たちはみんな溺れ死んでしまいました。
ただ、ベルゲルミルという巨人と、その奥さんだけは、とっさに丸木舟に乗り込んで助かりました。
一族全員殺されちゃった、ベルゲルミルの恨みは深いです!
「ちくしょー!オーディン、覚えていやがれ!いつか神々を皆殺しにしてやる!」
と、涙の誓い。
こうして、神々はユミルを殺したことで、巨人族と決定的に憎み合うことになったのです。神々と巨人族は、最後に「ラグナロク」で共倒れになるまで戦い合うことになります。
天地創造 ユミルの身体から作られた世界
ユミルを殺したオーディンたち。神々はユミルの巨大な身体を運び、そこから世界を創りました。
肉からは大地を、骨からは山脈を、歯やあごからは岩や石を。
流れる血は海となり、大地をぐるりと囲みました。
また、オーディンたちはユミルの頭蓋骨を高く持ち上げ、それは天空となりました。
世界になるほど巨大なユミルを、オーディンたちはどうやって殺したの? と疑問に思ってしまいますが、それは神話なので気にしてはいけません!神様なので何でもできるのです。
それからオーディンは、炎の燃え盛るムスペルから火花を拾ってきて、それを「太陽」と「月」と「星々」にし、天空に据えました。
こうして世界は形作られ、一日は「昼」と「夜」の二つの時間に分けられるようになったのです。
小人たち誕生!小人はウジ虫から進化した。
大地はユミルの死んだ肉から作られました。ですから、その腐った肉からは当然、ウジ虫がわきました。神々はそのウジ虫のことをちゃんと覚えていて、増えて大地の表に沸きだした彼らに、人間の姿と知恵を授けてやりました。
こうして生まれたのが、「小人」たちなのです。
ウジ虫から生まれたので、当然ですがその姿は美しくありません!汚くて、顔はひん曲がっていて、不格好で、品格にかけています。
顔が悪い上に、性格も悪い。ケチで強欲で自己中です。
ですが、仕事の腕は確かです。大地の中からわき出した彼らは、大地の中の宝物、黄金や宝石を掘り出し、思うままに細工する力を持っています。
その細工の才能は、神々も驚くばかり。この後、小人たちは黄金で素晴らしい宝物を作り、それをエサに神々を言いなりにさせたりします。神々もお宝には弱いのです。
この小人たちは世界中に広がり、小さな洞穴や洞窟に住み着きました。
オーディン、巨人が大っ嫌い!境界線を作って別々に住む
オーディンは着々と世界を作っていきましたが、一つ問題が残ってました。
ベルゲルミルと、その奥さんです!
彼ら巨人族はネズミレベルの多産系なので、すでにもう、ぞくぞくと数を増やしてました。
「巨人族と神々とで、住む場所をきっちり分けないと、また殺し合いになるな~」
と、考えたオーディン、境界線を作ることにしました!
そこで、この図のように住む場所を分けることにしました!
ここでまず説明しなきゃならないのが、北欧神話の世界は、一本の巨大な世界樹から成り立ってるということです!
この世界樹はユグドラシルと言います。「世界そのもの」の生命の木です。
神々はまず、一番上に「アースガルド」という神々の領域を決めました。
それから、海沿いの大地に巨人たちを済まさせることにして、ここを「ヨーツンヘイム」と呼びました。
でもですね、巨人たちは凶暴ですから、このヨーツンヘイムから勝手にあちこちに出かけて行って、神々のアースガルドまでやってくるかもしれません。
そこで、オーディンはユミルの眉毛を持ってきて、ヨーツンヘイムに垣根を作りました。この「アースガルド」と「ヨーツンヘイム」の間のラインを、「ミッドガルド」と呼びます。
世界の一番下はヘルです。ここは死者の国であり、すべての死んだ者はここへ行くことになっています。
オーディン、なんとなく人間を作る
さて、ある日、オーディンは何となく機嫌が良くて、海辺をトコトコ散歩してました。
すると、浜辺にトネリコとニレの木切れが転がっているのを発見!
何を思ったか、オーディンはそれを拾ってノミでコリコリコリ……。人型を二つ作りました。
この人型に、フーッと息を吹きかけますと、何とトネリコとニレは命を持って動き出したのです!さすが神ワザ!
この二つの木が、すべての人間の御先祖です。男はアスク、女はエブムラという名前でした。二人はミッドガルドに住むことになり、ミッドガルドが人間界になったのです。
人間たちの守護者であるオーディンは、アースガルドとミッドガルドの間を、虹の橋ビフロストでつなぐことにしました。
アースガルドには巨大な城塞が築かれ、十二人の神々と、十二人の女神たちが住みました。オーディンはその中で最長老です。
こうして、世界は完成したのでした。