十八史略とは⁈元祖三国志の入門書を徹底解説
こんにちは、坂口です。
三国志を勉強しよう!と決意すると、必ず耳にする「十八史略」なる本のタイトル。「後漢書」とか「宋書」なら、タイトルからして「あ~、後漢時代の歴史書だね」って分かりますが、「十八史略」って……なんかイメージ湧きませんよね。「コレって一体?」という人がほとんどだと思います。
でも実は!十八史略とは我々日本人がず~ッと何百年もお世話になってきた本なのです!
このページでは、十八史略について熱く解説します!
もともとは受験参考書だった!
十八史略が書かれたのは宋の時代。十三世紀です。書いたのは曾先之(そうせんし)という、ダレも名前を聞いたことない人。
あんまり優秀な人じゃなかったみたいで、ウィキペディアにすら解説が載ってないです。
この曾先之、魯陵(ろりょう)の人で、役人になるべく一生懸命勉強してる人でした。……この頃の役人のテストって超難関です。歴史から論語、漢詩と試験範囲が幅広く、合格するのは至難のワザ。曾先之は合格するべく死ぬ気で一生懸命になったみたいです。
この一生懸命さがハンパじゃなくて、なんと受験対策のための参考書を作製!なにしろ、テストでは歴史問題がムチャクチャたくさんあるので、
「ここら辺はテストに出そうだぜ」
っていう箇所を全部抜き出し。全二巻の参考書に究極圧縮したのでした。これが「十八史略」なのです!
でも……曾先之は結局合格できなかったみたいです。こんなに頑張ったのに、世の中って厳しいですね。
十八史略の参考文献はコレだ!
我らが曾先之、「テストに出そーな歴史の範囲をまとめた」十八史略を作ったのですが、さて、その歴史の範囲とはどこでしょう?
ズバリ、「曾先之が生きてた宋時代までの歴史書全部」がテスト範囲!当時の受験生は、宋時代までの歴史書全部を勉強しなきゃならなかったのです。気になるその歴史書とは……
・史記 130巻
・漢書 100巻
・後漢書 90巻
・三国志 65巻
・晋書 120巻
・宋書 100巻
・南斉書 59巻
・梁書 56巻
・陳書 36巻
・魏書 114巻
・北斉書 50巻
・周書 50巻
・隋書 85巻
・南史 80巻
・北史 100巻
・新唐書 225巻
・新五代史 74巻
・続資治通鑑(しじつがん)長編 520巻
・続宋編年資治通鑑 15巻
です!読むだけで一生を使い果たしてしまいそうです……。
「うわ~、こんなに覚えられねーぜ。要点だけまとめよ……」
って感じで、曾先之は十八史略にこれらを圧縮したわけですね。ぶっちゃけ偉人です。
こんなに頑張ったのに受からなかったなんて、なんて哀れな……;つД`)
ついでながら解説しますと、「続資治通鑑長編」と「続宋編年資治通鑑」はワンセット。残りの17種類の史書と合わせると、全部で18種類の史書をまとめたことになるので、「十八史略」なのです。
まさかの酷評⁈中国では十八史略はカス扱い
さて!曾先之が超絶頑張ってまとめ上げた十八史略ですが、本場中国ではムチャクチャ叩かれまくってます。
昔のことですから難し~言葉で叩いてます。
「其の書は史文を鈔節するも、簡略なること殊(こと)に甚し。巻前に歌括を以て冠す、尤も弇陋(えんろう)と為すべし。蓋し郷塾の課蒙の本にして、同時に胡一桂『古今通略』と視るは、これに遜(おと)ること遠し。」
分かりやすく言えば、こんな感じ。
「この本は歴史書のダイジェストだけど、いくら何でも短くしすぎ。冒頭に語呂合わせで国名の歌があるけど、バカバカしくて読んでらんない。胡一桂も『古今通略』っていうダイジェスト版を書いてるけど、レベル違いすぎ。ハッキリ言って僻地のダメな教科書だよね」
ここまで言う⁈ってくらいの酷評。曾先之も浮かばれないですね。
でも、まるっきり人気がなかったわけじゃなさそうです。曾先之が死んじゃってから数百年後、明の時代に陳殷(ちんいん)と陳殷(りゅうえん)という人が大量に書き足しをしてます。
この書き足しっぷりが物凄くて、もともと曾先之が書いたのは全二巻。陳殷と陳殷は全七巻になるまで書き足してます。ぶっちゃけ曾先之の原文は影も形も……。
十八史略、日本で大ブレイク!
中国では叩かれまくって、ほぼ読まれなかった十八史略ですが、海を渡って日本では超流行りました!
室町時代の足利学校に寄付されたのが最初のきっかけで、
「スゲー!中国史って超長いのに、こんなに短いダイジェスト版があったのか!これ書いた人、神だぜ!」
って感じで、またたくまに広がったのです。
日本史だって結構な量があるのに、その上で中国史を勉強するのですから、日本でダイジェスト版がウケたのは当然の成り行きと言えるでしょう。
特に「三国志」のくだりは大当たり中の大当たり!それまで三国志といえば、「魏書」「蜀書」「呉書」の三つに分かれていて、全体の流れはチンプンカンプンだったのに、十八史略では面白いところだけ抜き出してまとめてあったのです。十八史略は「三国志ブーム」の火付け役となったのでした!
その後、江戸時代になると、あらゆる寺子屋の必読書に。明治時代にも国語の教科書に取り入れられました。日本で「背水の陣」とか「泣いて馬謖を斬る」という言葉が定着したのは、全部十八史略の影響なのです。
中国ではクソミソにけなされた曾先之ですが、遠く離れた日本で、これだけファンができるとは思ってもみなかったでしょう。きっと草葉の陰で喜んでるはずです!
お知らせ
三国志の新刊を出しました!
三国志に興味ある方、中国古代史が好きな方、物好きな方、読んでね(^^)
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