【北欧神話 第3話】ロキを迎えたオーディン 神々の黄金時代の終わり

2019年5月23日

アースガルドの神々 どんな神々がいたの?

さて、アースガルドにはどんな神々が住んでいたのでしょう。

世界を創った神々は、ユグドラシルの根の下に、自分たちの楽園アースガルドを建設します。神々は地面の下から黄金や宝石を見つけ、その輝きをことさら愛しました。そして、自分たちの宮殿を、その黄金や宝石で作ることにしたのです。

一番大きく壮麗な宮殿は、神々の王オーディンのもの。内も外も、黄金に輝いています。その宮殿には、ヴァルハラと呼ばれる聖堂も続いて建てられていました。オーディンは人間の英雄たちの勇気を愛していました。そして、英雄たちが戦いで死ぬと、彼らをヴァルハラに連れてきて住まわせたのです。

オーディンの息子、トールも巨大な館に住んでいます。トールはオーディンの第一の息子。炎のように赤い髪を持っていて、陽気な性格。怪力の持ち主です。トールの館は彼の怪力にちなんで「力の館」と呼ばれています。

アースガルドに敵が忍び込んでこないか、常に見張りの役をしているヘイムダル。彼はアースガルドとミッドガルドを結ぶ橋、ビブロストから何者かがやってこないか見張るため、ビフロストの側に館を構えていました。

女神たちも館に住んでいました。北欧神話では、女神たちも男神に負けない権力と強大な力を持っていました。そのため、彼女たちもそれぞれ黄金の館を持っていたのです。

オーディンの妻フリッグ。神々に不老不死のリンゴを配る、青春の女神イドゥン。彼女たちも、この先神話で活躍することになります。

神々の黄金時代 何の不安もない神々

アースガルドを建設してしばらくは、神々は幸福で何の不満もない時代を過ごしていました。この時代を「黄金時代」と呼びます。建物が黄金でできていたためだけではありません。神々は歳を取らなかったため、「死」や「老い」の恐怖がなかったのです。

神々は永遠に続くと信じている青春を謳歌していました。

オーディンはしばしば青空で作った青いマントを着て、ミッドガルドをぶらぶらします。どうしようもない女好きで、美人をあさりに行くためです。

果てしもない浮気の数々は、しばしばフリッグを激怒させましたが、それ以外は仲良くやっていたようです。北欧神話の女は強いので、フリッグも数え切れない男と楽しんでいたし、何より二人の間にはバルドルという息子がいて、二人とも彼を溺愛していたのです。バルドルは光の神で、美しくて賢く、すべての人の喜びでした。

神々は駒を使う盤遊戯(チェスに似ています)が好きで、いつもゲームに熱中していました。青春の女神イドゥンが、彼女の箱の中に「青春のリンゴ」を持っていて、神々に配って歩きます。青春のリンゴは命のリンゴで、これが神々に若さを与えているのです。

神々は、「いつか青春のリンゴはなくなるのではないか」と一度だって考えたことはありませんでした。自分たちが老いて醜くなるとか、いつか命が亡くなって死ぬなどと、思いもよらないことだったのです。

ロキの到来。ロキを義兄弟にしたオーディン

ある時、一人の来訪者がアースガルドを訪れました。彼は「ロキ」と名乗りました。「ロキ」とは古代の言葉で「火」を意味します。彼は神でも人間でもなく、巨人の一族でした。

けれども、それまで神々が知っていた巨人とは、ロキは似ても似つかぬ存在でした。巨人たちはたいてい、恐ろしいほどに大きくて、肌は青白く、吐く息は氷のように冷たく、顔は醜くていまわしい考えに歪んでいます。

一方ロキは、たいそう美しかったといいます。まぶしいほどの金髪で、目は赤や緑にちらちらと輝いていました。体は小柄で、実に身軽であったようです。性格は、顔立ちの美しさと反対にずる賢く、争いを好み、陽気でいたずら者でした。名前の通り、彼は美しく危険な「火」そのものだったのです。

口達者な彼は、巨人でありながら、神々のアースガルドに堂々と入り込み、巨人たちが神々に陰謀を企んでいることをペラペラとしゃべって歩きました。当然、神々はあわてふためいて会議を開きます。ロキの情報は正確で、その後巨人たちの陰謀は現実のものになりました。

この働きで、ロキは神々に一目置かれる存在になります。

最初にロキを気に入ったのはトール。陽気でうたがうことを知らないトールと、悪知恵の働くロキは、その後奇妙な友情をはぐくんでいきます。

そして、ロキはオーディンに近づきます。

彼がなぜ、オーディンに近づいたのか、はっきりしたところは分かりません。ただ「彼はオーディンに自分に近いものを感じた」と言います。

そしてそれは、オーディンも同じでした。オーディンは「ロキの中に自分の血の一部と、そして自分の肉の中の一部の臭いを嗅ぎつけた」と言います。

それが一体、どういうことを示しているのか? 残念ながら、北欧神話は失われた部分も多く、古代人がどのような意図で「ロキ」という存在を作ったか、今となっては分からないのです。彼の正体については、おいおい、神話が進むにつれて明らかになるでしょう。

話を戻して、オーディンにロキは提案します。「オーディンの側に席を持ちたい。そしてオーディンの義兄弟になりたい」たかが巨人の小せがれが、あまりにも身の程知らずな要求でした。巨人を捨てて、アース神(アースガルドの神)となり、オーディンの弟になりたい、というのです。

当然、ほとんどの神々は反対します。一番反対したのはヘイムダルでした。神々の見張り番、「白い神」「一番明るい神」と呼ばれる彼は、神々に迫りくる危険に、度の神々よりも敏感だったのです。「奴の鋭い感覚は陰険なものになる。奴の策略は悪だくみになる。巧みな言葉で女神を惑わせ、平和な協議に災いをもたらす」と必死に警告しました。

しかし、王たるオーディンがロキを迎え入れることを決定します。オーディンはロキのずるさを愛し、互いの血を混ぜて義兄弟の誓いを交わしたのです。

こうして、アースガルドに最後の「神」が迎えられます。

しかし、ヘイムダルの警告は的中することになります。ロキの登場は神々の黄金時代を終わらせ、彼の奸智はその後の神々の運命を大きく変えることになるのです。

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