七夕物語は四種類ある!織姫、彦星だけじゃない!
七夕物語を知らない日本人は、おそらく一人もいないでしょう!
織姫と彦星の二つの星が、年に一度七月七日の夜に、天の川を渡って出会う。実にロマンチックな物語ですが、実はこの話、何パターンもあるってご存知ですか?
このページでは、わたしが知っている中で面白いものを四つ紹介します!
オーソドックス七夕物語
まずは一番、一般的な物語から。
天の神、天帝(てんてい)には一人の美しい娘、織姫がいました。織姫の仕事は神々が身にまとう機を織ることで、彼女のおる布は「雲錦(うんきん)」と言いました。この布は、紫色の美しい錦で、日光に映してみると、五色の気が立ち上り、チリをかけると散ってしまう。そして雨にも雪にも濡れることもないという実に便利アイテムでした。
しかし、織姫は朝から晩まで機織りをせねばならず、その忙しさはブラック企業レベル。美しい黒髪を梳くヒマも、おしろいを塗るころもできないという有様。
さすがに父の天帝も憐れに思い、「娘らしい喜びを味合わせてやりたい……」と、凛々しい婿を貰ってやることにします。白羽の矢が当たったのは、天の川で牛の世話をする彦星という若者。働き者で、しかも美しい顔立ちでした。
若い二人は一目で運命的な恋に落ち、仲睦まじく暮らします。ところが……、二人は恋に夢中になるあまり、仕事をすっかり忘れてしまうようになったのです。織姫は機織りをしなくなったので、神々の衣装はたちまちボロボロになり、彦星は牛をほったらかしにするので、牛は病気になってしまいます。
これに腹を立てた天帝、二人を天の川の東と西に引き離してしまいました。ですが、夫を失った織姫の嘆きは一通りではなく、嘆きのあまり死んでしまうかと思われました。天帝は二人を呼び寄せ、
「前のように仕事に精を出すならば、年に一度、七月七日に逢わせてやろう」
と約束します。こうして、二人は七月七日の夜、天の川を渡って会うようになったのだといいます。
天の川に身を投げた織姫
七月七日の夜、二人が逢うとき「カササギの橋」を渡ったというのは有名ですが、これにはロマンチックなエピソードがあります。
初めての七月七日の夜。一刻も早く会いたい二人は川の両岸に駆け寄ります。しかし、天の川は広く、しかも激しい勢い。橋も船もなく、二人は呆然と立ち尽くします。
そのとき、あまりの切なさにたまらなくなった織姫。「泳いででもあの人に会いたい」と、ついに天の川に身を躍らせたのです。すると、それを見ていたカササギたちが「姫を救わねば」と何千羽も集まって、橋を渡してくれたのでした。
天にいる恋人を追って竹を登る
今度は日本に伝わる七夕物語。
昔、ある漁師の若者が池で水浴びしている天女を見つけました。近くの松の枝に、彼女の羽衣がかかっています。若者は美しい天女を天に返したくないばかりに、羽衣をこっそり家の米びつの下に隠してしまいました。
やがて、遊び終わった天女は羽衣を探しましたが、見つかりません。泣いて嘆く天女に、若者は「わしの家で暮らすがよい」と言い、二人は一緒に暮らすようになりました。若者は実に心優しい男だったので、やがて天女も心を開き、二人は夫婦として暮らすようになります。
しかしあるとき、飯の支度をしようとした天女は、米びつの下から羽衣を発見。「ああ、これで帰れる!」と、即刻、天に帰ろうとします。漁から戻って来た若者は、天女が今しも飛んでいこうとしているのを見て、「待ってくれ!」と叫びました。
「わしを置いて行かないでくれ。わしを何とも思っていないのか」
すると天女は「もし、わたしと一緒に暮らしたいのなら、あなたも天に来てくださいませ。千足のわらじを作り、それをタケノコの周りに並べるのです。そうすれば、あなたも天に昇ることができるでしょう。
天に消えゆく恋人を眺めつつ、若者は千足のわらじを作ることを決心。夜も寝ないで、必死に編み続けました。そして二年もかかって、ついに編み上げました。編み上げたわらじをさっそくタケノコの周りに並べると……不思議、不思議。タケノコはぐんぐん伸びて、ついに天に届く竹となったのです。
「そうか!この竹を登れば、恋しい人のもとへ行ける。すぐに行こう!」と、若者は竹にすがり付き、無我夢中で登っていきました。若者の家は見る間に小さくなり、やがて雲が横に見え、ついに星々の世界へやってきました。
すると、頭の上から「ああ、あなた!わたしです。さあ、手につかまって!」という天女の声。天女は若者の手を取り、天上界へ引き上げてくれました。そこは一面の星々の世界。無効に宮殿がそびえていました。
「わたしの父は天の神、天帝です。あなたを夫として父に引き合わせましょう」と天女は言い、若者は天帝の前へ行きました。すると天帝は
「姫と暮らしたいということだが、お前は人間だ。人間がここで暮らすには、一つ試練を受けなければならない」
と言いました。その試練とは、天の瓜畑の番をすることでした。「だが決して、瓜に触ってはならない」とのこと。若者はすぐに、瓜畑へ出かけていきました。しかし、これは簡単なようで大変な試練だったのです。
ただの畑ではなく、天の瓜畑。すぐ近くが太陽なのです。若者はあまりの暑さで、渇きに苦しむようになりました。目の前には、水気たっぷりな瓜がゴロゴロしています。「ああ、瓜が食べたい……」と気がおかしくなりそうになりました。「いや、でも触ったら、もうあの人に会えなくなる……」とこらえるも、だんだんフラフラになっていきました。
ついに意識朦朧となった若者、とうとう瓜に手を伸ばしてしまいました。と、指が瓜に触ったとたん、瓜が突然割れて、そこから恐ろしい勢いでざあざあと水があふれてきました。後悔するもすでに遅く、若者は「姫!姫!」と叫びつつ、水に流されてしまったのでした。
この水の流れが、天の川になったのです。そして姫と若者は川の対岸に分かれ、織姫と彦星になりました。
食事のマナーで試験
このタケノコストーリーは、別バージョンがあります。
天帝の試験は、食事のマナーだったというもの。天帝はやって来た若者に、「一緒に食事をせい」と言います。天女はそっと耳打ちして、
「天界では、食事は全部、横に切って食べるのです。そのやり方を見ているのですから、気を付けてくださいませ」
と注意します。
若者はその通りに、全部横に切って食べました。天帝は満足顔で見ていましたが、最後にデザートで出た瓜を差して、「これは縦に切って食べろ」と言いました。若者は正直に縦に切ってしまいます。
すると、瓜の中からいきなり水がどっと溢れて、若者は押し流されてしまったのでした。天帝、卑怯者というか、セコいというか、やな感じですね。
天の川をさかのぼる
ここからは、織姫、彦星がほぼ関係ない伝説を紹介します。
昔、中国に一人の男が住んでいました。この男は、毎年八月になると、海に材木が大量に流れてくるのを見て不思議に思っていました。
「この材木は、一体どこから流れてくるのだろう……。一つ、漕ぎ上って原因を確かめてみよう」
こうして男はいかだに食料を詰め込み、海へ漕ぎ出したのでした。
初めの十日、普通に航海をしていたのですが、途中から周りがぼんやりしだし、どこを漕いでいるのか分からなくなってきました。そして気がついたら、男は銀に輝く巨大な川に出ていたのです。
そのうち、川の両岸に巨大な宮殿が立ち並んでいるところに出ました。そこでは美しい女たちが、せっせと織物をしています。
男は川で牛に水を飲ませている若者を見つけて、声を掛けました。
「一体ここはどこでしょう?」
すると若者は「国に帰りなさい。蜀(しょく)の国の厳君平(げんくんぺい)に聞けばわかるでしょう」と、厳君平に丸投げ。
国に帰った男は、さっそく厳君平を訪ねます。この人は占星術師でした。見てきたものすべてを話すと厳君平は
「ほう。ちょうどその日、わしが星を見ていると、正体の分からぬ星が天の川を登って、彦星の側で止まった。ではあの星は君だったのだな」と言ったのでした。
……結局、流れてきた材木は何だったのでしょうね?これがいまいち不明な伝説です。
いきなり富と長寿をゲット!
中国は唐(とう)の時代のお話。
郭子儀(かくしぎ)という人が、ある夜、田舎の家の庭でのんびりしていると、突如!空一面、素晴らしい光が満ちあふれ、その光の中で美しい一人の天女が車に乗っている姿が見えました。
「やや!今夜は七月七日!するとあれは、うわさに聞く織姫に相違ない!」
確信した郭子儀、ペコペコと礼拝して
「織姫様、彦星様と再会、おめでとうございます!つきましては、わたくしに富と長寿を与えてくださいませ」
ついでの願いにしては随分と図々しいですが、織姫は彦星との再会でたいそう機嫌が良かったらしく
「良いでしょう、叶えてあげます。富も長寿も思いのままですよ」
とアッサリ約束。
はたして、織姫の約束はご利益抜群。郭子儀は八十五歳まで長生きし、しかもその生涯は出世に次ぐ大出世。数知れぬ蔵に金銀財宝を積み重ねるという、想定外の大金持ちに!家来の数は三千人。しかも子々孫々、宮中で重職についたのでした。
何ともうらやましい限りです。
まとめ
七夕物語に関係するエピソードは、このほかにも色々あります。
というのは、このお話は、シルクロードを伝わってきた「羽衣伝説」、中国に元々あった「七夕伝説」など、複数の伝説があっちこっちで混ざり合ってできたストーリーだからです。ですから、日本だけでも沖縄などの島々、本土でいくつかのパターンが伝わっています。
七夕まつりは、中国では乞巧奠(きこうでん)というお祭りでした。この祭りでは、織姫に手芸が上手になるようにお祈りしたそうです。くれぐれもお金や出世を祈らないように……。
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