【オセアニア神話】タネの嫁探し。女性を作った話
オセアニア神話で「世界を創造した」とされるタアロア神。タアロアが信用していろいろ細かい仕事を任せていたのが、「タネ」という神様です。「タネ」とは「男」という意味で、その名の通り、彼は男性としていろいろやらかします。
タネは森の神で、森林とそこに住む生き物の守り神ですが、彼の神話で最も有名なのは自分の娘を嫁さんにするストーリーです。では、このとんでもない話を紹介しましょう。
タネ、嫁さんを探す
タネはその名の通り男性機能の塊でした。とにかく女が欲しかった彼。嫁さんを探してあっちこっちうろつきます。
最初に訪れたのは、なんと母親のパパ(日本人には女性の名前っぽく聞こえませんが、大地の女神です。すべての神々の母親で、旦那は天空の神様です)。自分の母親に向かって「オレと交わってよ」と嘆願。パパ、あっさり拒否。
「とんでもない。別をあたりなさい」
そこで、タネはブツブツ文句を言いながらも他の嫁さんをさがし、手あたり次第交わります。そのほとんどは人型ではなかった(タネは人間の姿をしてます)らしく、産まれるのは山とか蛇とか、気に入らないのばっかりでした。
タネは自分がイケメンだと自負していたので、子供が美しくないのが不満でした。そこで、もう一度母親のパパのところへ行って相談します。
「どうしたらまともな子供ができるのかな?」
「まともな女と交わるしかないでしょ。見つからないなら自分で作ればいいじゃない」
と、パパはアドバイス。「そうか!それはいいアイディアだ!」とタネは膝を打ち、ハワイキという島へ旅立ちました。
このハワイキという島はよく神話に出てくる地名で、一体どこにあるのかは分かりませんが、一説によると現在のサバイイ島だといいます。ポリネシアの伝承によると、ポリネシア人のご先祖はすべてこのハワイキからやってきた。そして死者の魂はハワイキに帰っていくのだと言います。つまり、「すべての人の故郷」なのです。
女性を作ったタネ
ハワイキにたどり着いたタネは、この島の土をこねて理想の女性を彫像。タネは命を吹き込む力を持っていたので、粘土細工の女にさっそく「命の息」をふきこみます。
女は見る見るうちに本物の女になり、「ヒネ・ハウ・オネ」(土でできた女)と名付けました。
タネは女が目を開けるなり襲い掛かって、ヒネ・ハウ・オネは即妊娠。女の子を産みました。この娘はヒナ(夜明けの女)と名付けられます。
不幸すぎるヒナの人生
タネが見境がないのはすでにお分かりのことと思いますが、この先、さらに見境のない行動に出ます。
タネと土の女の間に産まれた娘ヒナは、しばらくして美しい女性に成長(神様の子なのであっという間に成人します)。きれいな女なので、タネはこの自分の娘に手を出します。
全然、罪の意識のないタネ。ヒナとの間にむちゃくちゃたくさん子どもを作ってしまいます。
ところがある日、ヒナは「わたしの父親って誰かしら」と素朴な疑問を持ちました。ヒナはそれまで、自分の夫が父親であることを知らなかったのです。
「ねえ、あなた。わたしの父を知らない?」
と、ヒナがタネに質問。答えに窮したタネは
「家の柱に聞け」
と意味不明な回答。ところがこれで、なぜかヒナは「タネが父親だったんだ!」と察知。
「あなたって最低!もう出ていくわ!」
心にあまりにも深い傷を負ったヒナ。泣く泣く家を飛び出し、地下の世界「ポ」へ逃げてしまいます。タネは奥さんを追ってポへ行こうとしましたが、そのとき地下から怒り心頭のヒナの声が……。
「もうわたしは地上とは縁を切ったのよ。地上の子供たちはすべてあなたが面倒を見なきゃならないのよ。わたしはこの冥界から、地上の命を次々に地下へ引きずり込んでやる」
こうしたわけで、地上にいる生き物たちは次々にしに、土に還る(地下世界へ行く)運命になったのでした。