【北欧神話】第8話 リーグの歌。ヘイムダルの旅

2019年5月7日

千里眼の持ち主で、虹の橋ビフロストに座って、巨人たちがアースガルド(神々の国)へおそってこないよう「神々の見張り番」をしているヘイムダル。彼はまた、ギャラルホルンという角笛を持っていて、最後の戦いラグナロクが始まるとき吹き鳴らす役目も背負っています。

そんなヘイムダル、最も有名な神話は「リーグの歌」。ヘイムダルがミッドガルド(人間の世界)を旅し、その間に奴隷、農民、戦士の先祖を定めたというもの。実にリズムが良く、読みやすい神話です。

今回は「リーグの歌」のあらすじをご紹介します!

奴隷の祖先、アーイとエッダ

春のある日、ヘイムダルはビフロストを渡って、ミッドガルドへやってきました。彼はギャラルホルンも馬のグルトップもアースガルドへ置いてきたので、誰も彼がヘイムダルだと分かりませんでした。

日暮れにヘイムダルは、古いあばら家へたどり着きました。その掘立小屋はぐらぐらしていて、冬に強い風が吹いてきたら、あっという間に崩れてしまうだろうと思われました。

ガタガタの戸を開けると、その向こうには麻布が山と積み上げられていました。それを苦労して乗り越えていくと、泥の床の上に夫婦がうずくまっているのが見えました。夫がアーイ、妻がエッダといい、二人は火の向こう側に座っていました。

「お邪魔ではないですかな?」とヘイムダル。

「お名前は?」とアーイ。

「リーグ」と神が答えると、「ようこそいらっしゃいました」とエッダが迎え入れました。

ヘイムダルはあれこれとうまい言葉を使って、火に一番近い場所に座り、夕食をごちそうになりました。それは固いパンの塊と、薄い肉汁で、どれも悪臭を放ち、決して満足できるものではありませんでした。

ヘイムダルはこの家に三日間泊まり、温かいもてなしに感謝して去っていきました。

9か月後、エッダは男の子を産みました。彼の名はスレール(農奴)です。肌はしわが寄り、指は切り株のよう。顔は醜く、背中はねじれ、足は大きすぎました。が、彼は非常にたくましく、あけても暮れても森の中で働く青年に育ちました。

成長したスレールは、シールというあくせく働く醜い娘を嫁に向かえます。この二人から、奴隷の種族が生まれたのです。

農民の祖先、アヴィとアンマ

ヘイムダルはさらに旅を続け、一つの農場にやってきました。

入り口をノックして中に入ると、部屋の中央には気持ちよく火が燃えていました。そしてそのそばに、一組の夫婦が座っていたのです。夫はアヴィ、妻はアンマと言います。

アヴィはきちんと頭の巻き毛を櫛でとかしており、革の上着と半ズボンを身に着けていました。一本の木を膝の上に乗せ、ナイフで削っています。機織りの巻き軸を作っているのです。

アンマは髪を束ねて結っており、単純な仕事着を着て、立派な留め金で留めたショールを肩にかけていました。彼女は糸をつむぐ仕事に余念がありませんでした。

「お邪魔ではないですかな?」とヘイムダル。

「お名前は?」とアヴィ。

「リーグ」と神が答えると、「ようこそいらっしゃいました」とアンマが迎え入れました。

ヘイムダルはうまい言葉をかけて、火に一番近い場所に座り、夕食をご馳走になりました。それはライ麦パンひと塊、ベーコンの塊とバターの塊。ビールと、煮立てた子牛の鍋でした。アンマはナイフとスプーンもきちんと並べました。

ヘイムダルは三日間、そこに泊まりました。そして温かいもてなしに感謝して去っていきました。

そして9か月後、アンマは男の子を産みました。彼の名はカルルです。カルルは、頬はバラ色、瞳は澄んで晴れやか。彼はたくましく成長して、どうやって牛を使って畑を耕すのか、どうやって鋤を使いこなすのか、小屋を建てるのかを学びました。

やがて彼はスネールという娘を嫁にもらい、それはそれは大量の子どもたちを産みました。この子どもたちが、農民の祖先となったのです。

王族の祖先、ファジルとモージル

ヘイムダルはさらに旅を続けて、やがてある館の前にたどり着きました。

勝手に中に入ると、夫婦が部屋の中で座ってお互いに見つめ合ってイチャイチャしていました。夫はファジルといい、ニレの木で矢を作っていました。妻はモージルといい、彼女は頭飾りをつけ、胸にはブローチ、裾が豊かに長い服を着ていました。しかも美人でした。

神は完全にお邪魔虫なのにいけしゃあしゃあと「お邪魔ではないですかな?」と尋ねます。

「お名前は?」とファジル。

「リーグ」と神が答えると、「ようこそいらっしゃいました」とモージルが迎え入れました。

ヘイムダルは、またまたうまい言葉をかけて火の側を占領。夕食をごちそうになります。モージルは刺繍したリンネルの布をテーブルにかけました。それから、白パンの塊、チーズと玉ねぎとキャベツがあふれるほど盛ってある銀の鉢。ベーコンと、こんがり焼けた豚肉、馬肉、子羊肉。ヤマウズラとライチョウ。瓶には葡萄酒がたっぷりと入っており、見事な盃も用意されました。ヘイムダルは実に満足し、三人は愉快に語ったり笑ったりしました。

神はその館に三日間滞在し、もてなしに感謝しつつ去っていきました。

9か月後、モージルは男の子を産みました。彼の名をヤルルと言います。彼は明るい髪をして、輝く瞳は厳しい光を持っていました。

ヤルルは瞬く間に大きくなり、盾を振り回し、弓を使い、矢を作り、槍を投げることを覚えました。

あるとき、全く唐突にヘイムダルがヤルルを訪ねてきます。ヘイムダルはヤルルを呼び止め、「わたしはお前に贈り物を持ってきた」と語ります。ヘイムダルが持ってきたのは、巻物に書かれた赤い文字でした。

「これがルーン文字だ。万物の父が作った魔法なのだ」

それからヘイムダルは、ルーン文字とその使い方をヤルルに教えます。ヤルルは知恵を授かり、人生がこれから始まることを感じました。

「お前に教えることがもう一つある」ヘイムダルはヤルルに言います。「わが子よ、お前はわたしの息子なのだ。お前は国土を勝ち得、王になることだろう。さあ、今こそ軍勢を指揮するときだぞ」

こうして、ヤルルは神の言葉通り戦を起こし、多くの館を勝ち得て、部下たちに惜しみなく金銀を分け与える王になります。そして、彼は色白で賢い娘エルナを妻にします。二人は子孫を増やし、満ち足りた人生を送りました。

彼らの子どもたちが、王族の祖先となるのです。

ヘイムダルが人間の始祖を作った!

というわけで、実は主神オーディンではなく、ヘイムダルが人間の三つの種族を作ったのでした。(その作り方がずーずーしいですが)

エッダの「巫女の予言」という歌の冒頭は、

「すべての尊い氏族(しぞく)、身分の上下を問わず、ヘイムダルの子らによく聴いてもらいたい」

という言葉で始まります。当時は「人間はすべてヘイムダルの子孫」という考えが一般的だったのですね。

ヘイムダルは「白いアース」と呼ばれ、アースの中で特に美しい神として知られています。人間たちは、「自分たちは美しいヘイムダルに定められた種族だ」ということを誇りにしていたのかもしれません。