【ケルト神話】歴史を見た男トァン・マッカラル

2019年4月18日

アイルランドに来た人々

ケルト神話には、天地創造の話がありません。いえ、もしかしたらあったのかもしれませんが、失われてしまったのです。

今、残された神話で最も古いものは、アイルランドに初めて人間が渡ってきた物語です。

ケルト人がアイルランドに定住する以前、次々と5つの民族がアイルランドに渡っては、滅亡していきました。その物語をまとめたものが「侵略の書」と呼ばれるものです。

謎の巨石文明を築いた人々

世界中の人々が、一度は目にしたことのあるストーンヘンジ。アイルランドには、あちこちに巨石文明の名残が残っています。エジプトでピラミッドが造られる、はるか二千年も前。何トンもある巨石を、鉄も持たない古代人が、いったいどうやって運び、並べたのか?今もって何一つ謎は解明されていません。「侵略の書」は、この巨石文明を築いた古代人たち。ケルト人がアイルランドに定住する以前に、アイルランドに住んでいた人々の歴史をつづっているのです。

この謎の古代人たちはケルト人から「ダーナ神族」――ダナの息子たちと呼ばれています。

「どこから来たか分からないが、おそらく天から来たのだろう。それほど彼らの知恵は優れていた」と侵略の書では語られています。

ダーナ神族はアイルランドの地に巨石文明を築き、そしてあとからやって来たケルト人に滅ぼされました。優れた文明を持ってはいても、すでに鉄器を持っていたケルト人の敵ではなかったのです。侵略の書では「彼らは地下を治めることになった」と語られています。つまり、滅ぼされ死に絶えたということでしょう。

しかし、ダーナ神族はケルトの神話の中にその後も生き続けることになります。「地下を治めることになった」ダーナ神族。ケルト神話の中には、地下に住む妖精や小人があちこちに登場します。巨石文明を目の当たりにしたケルト人は、その文明の高さに驚嘆し、彼らの知恵を恐れました。その恐れと憧れが、妖精や小人という形になり、物語の中に息づくことになったのです。

次々と姿を変えるトァン・マッカラル

最初にアイルランドにたどり着いた種族は、パーホロンといいます。しかし、この種族はある年に疫病が流行り、1人を残して皆死に絶えてしまいました。ただ一人、トァン・マッカラルを残して。

ただ一人の生き残り、トァン・マッカラルには、おそらく使命があったのでしょう。彼はその後何千年にもわたって生き続け、歴史を見続けることになります。この「侵略の書」は、トァン・マッカラルがある修道士にたずねられて歴史を語り、修道士が書き留めたもの、という形をとっています。

トァンは語ります。「そのひとりがこのわたしです。たったひとりになったわたしは、岩から岩へ、狼をさける隠れ家を見つけながら、荒れ果てた島の中で22年の間生きていました……そうしたある日のこと、崖の上から他の種族たちが上陸してくるのが見えました……わたしの爪や髪は長く伸び、髪の毛は真っ白になり、裸同然だったので見られたくないと思い、岩屋の中に隠れて暮らしました」

そうしてしばらくたった朝、彼はいつの間にか鹿に変身していました。これはケルト神話によくあるパターンです。魔法をかけられたり、土壇場に追い詰められたりすると、彼らは他の動物に変身します。新しくやって来た種族はネヴェといいましたが、彼らはなぜか突然滅亡してしまいます。

そしてまた、別の種族フィルボルグがやって来たのです。トァンはこんどは猪となり、フィルボルグの歴史を見守ります。

「わたしはまた年老いて、弱り果てていきました。暗い洞穴のなかでたったひとり、3日の間何も食べずにじっとしていました。三日目に、全身の力が抜けたように感じますと、今度は大きな鷲になっていました……翼に若さと力をみなぎらせて、空に舞い上がり、空の高みから島全体を見下ろしたとき、女神ダヌから生まれた一族たち、ダナの息子たちが島にやってくるのが見えました」

「すぐれた技術と知恵を持ったダーナ神族は、一時は島を支配しましたが、次にやって来た、ビレという地下の神の息子ミレー族に敗れてしまいました。ミレー族たちはティルタウンの戦いでダーナ神族に勝ったのです。戦いに敗れたダーナ神族は、地価と海のかなたに逃れて、そこに国を作って住むことになりました」

このミレー族がケルト人であり、ケルト人はこの後アイルランドに繁栄することになります。

歴史を見終えたトァン・マッカラルは、その後鮭に姿を変え、漁師につられ、ミレー族の女に食べられてしまいます。女の子宮に入ったトァンは再び人間として生まれ変わり、自分の生い立ち、転身の様、5つの種族の歴史を語って世を去ったのです。

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