【ケルト神話】マー・トゥーラの合戦 ダーナ神族と闇の民との戦い

2019年4月26日

トァン・マッカラルが見た光の一族

イギリスの美しい島、アイルランドの歴史を見た男トァン・マッカラル。彼が語った歴史の中で、最も美しく賢い一族は、ダーナ神族です。彼らはどこから来たのかはわかりませんが、ミレー族(ケルト人)がやってきて彼らを滅ぼすまで、アイルランドに素晴らしい文明世界を築いていました。一説によると、彼らダーナ神族は「海に沈んだアトランティスから流れ着いた人々」と言われています。

ダーナ神族が流れ着く前、アイルランドに定住していたのはフィルボルグという一族でした。彼らは後からやって来たダーナ神族が優れた知恵や技術を持っていることに不満を感じ、ダーナ神族を島から追い出そうとします。

当然、ダーナ神族は戦いに応じ、勝利をおさめます。このときダーナ神族は、手ごわいフィルボルグと戦うためにフォモール族と同盟を結びました。フォモール族は同じくアイルランドに定住にしている一族で、その長は「魔眼のバロール」という男でした。バロールは恐ろしい魔眼の持ち主で、その瞼は重く、四人がかりでなければ開けることはできません。一度その目が開かれると、その目から発する光でおびただしい軍勢を一瞬のうちに殺してしまうのです。

一方、ダーナ神族を率いるのは高潔なヌアダ王でした。長身で美しい金髪、青い瞳。戦に強く、公平な治世。すべての人々から愛される王でした。

「魔眼のバロール」率いるフォモール族。高潔なヌアダ王が率いるダーナ神族。この二つの民族は対照的です。おそらくは、フォモール族はアイルランドに古くから巣くっていた闇の象徴。突然襲いかかる疫病や、飢饉、災害などを表すのでしょう。そして美しく強いダーナ神族は、それに対する光を象徴していると考えられます。

フォモール族との戦い

フィルボルグを駆逐したダーナ神族ですが、「闇の一族」との同盟が長く続くはずはありません。休む間もなく、今度はフォモール族と戦うことになりました。長く苦しい戦いの末、ダーナ神族が勝利を収めることになります。この戦いが、ケルト神話に名高い「マー・トゥーラの合戦」なのです。

この戦いは複雑で長いので、順を追って説明しましょう。

銀の腕のヌアダ

「幸福をもたらすもの」と呼ばれ、人々の病を治し、「腐敗の剣」を持って勇ましく戦うヌアダ王。フィルボルグとの戦いでも、陣頭に立って目覚ましい戦果をあげました。

しかし、この戦いでヌアダ王は不幸なことに片腕を切り落とされてしまったのです。医術の神ディアン・ケヒトが銀の腕を作り、失われた腕を補いました。これ以後、「銀の腕のヌアダ」と王は呼ばれることになります。

銀の腕はつきましたが、「体が不自由な者は王になってはいけない」という厳しい掟がありました。そのために、ヌアダは王位を追われ、かわってブレスという男が王座に就くことになりました。

ダーナ神族を苦しめる王ブレス

ブレス王はダーナ神族にとって恐ろしい悪政をしく王でした。欲が深く、重税を課し、しかも自分からは何も与えないのです。国中の牛からとれる牛乳をすべて取り上げ、野原を焼き尽くしました。

それもそのはずで、ブレス王はフォモールの王がダーナ神族の娘エリを無理やり犯して産ませた子だったのです。彼は闇と悪の非道な力を受け継いでいたのです。彼の闇の力による支配は七年の長きにわたって続きました。

そのころ、「銀の腕のヌアダ」の元に、一人の名医が訪れていました。彼は銀の腕をヌアダに着けた医者の息子ミアハでした。彼はヌアダに

「切り落とされた腕をわたしに渡しなさい」

と申し出ます。腕は土に埋められて長い年月が流れていましたが、掘り出して持ってこさせました。ミアハは腕をヌアダの肩にそえると、

「筋は筋に、神経は神経につながれ!」

と呪文を唱えます。すると、腕は元通りによみがえり、ヌアダは元の身体に戻ったのでした。

ヌアダ王とブレスの戦い。ダーナ神族の敗北

元の身体に戻ったヌアダはブレスに退位を要求。再び王座に返り咲きます。

半分フォモール族の血を引いているブレスは、王座を奪われた恨みに燃えてフォモールの「魔眼のバロール」に助けを求めました。バロールはブレスの要求を承諾。ともに大軍を率いて、ダーナ親族に戦いを挑んだのです。

こうして、マー・トゥーラの合戦は起こったのでした。

ヌアダ王は再び剣を取って戦いましたが、フォモール族の力は強大でした。ダーナ神族はついに敗れ、その後フォモールの支配を受けて重税に苦しむことになるのです。

光の神ルーの登場

ダーナ神族が悲しみの日々に暮れるある時、突然ヌアダ王の宮殿を訪れたものがいました。彼の名はルー。今まで、誰にも知られることなく育った若い神の一人でした。

ルーはヌアダ王の腕の治療をした医師ディアン・ケヒトの息子キアンと、魔眼のバロールの娘エスリンとの間に産まれました。

年月は少し遡り、バロールは若いころ、ドルイド僧から「お前の娘は男の子を産み、彼がお前を殺すだろう」と予言されます。孫に殺されるというむごい運命を聞き、バロールは蒼白に。「エスリンが子どもを産みさえしなければ、予言は成就しないのでは」と考え、すぐさま幼いエスリンを高い塔のてっぺんに閉じこめたのでした。

バロールのほかは一人も男を知らないまま、エスリンは絶世の美女に成長します。そんなある日、バロールが塔を登っていくのを見たキアンが、疑問に感じて塔に侵入します。そして彼は美しい乙女を発見したのでした。

エスリンとキアンはその場で結ばれ、彼女は身ごもります。これを知ったバロールは激怒。赤ん坊を殺されると恐れたエスリンは、キアンに赤ん坊を託して逃がします。キアンは海の神マナナーンの助けを借りて九死に一生を得ました。

「マナナーンよ、あなたに助けてもらった礼をしなければならないが、わたしはこの息子しか持っていない。この子をあなたに捧げよう」

キアンが赤ん坊を渡すと、マナナーンは喜び、この子を戦士の中の戦士に育てたのです。この息子こそ、のちの光の神ルーなのでした。

ヌアダ王がルーに全権を授ける

さて、ヌアダ王の宮殿を訪れたルー。門番に職業は何か?と聞かれて「わたしは大工です」と答えます。「大工ならもういる」「わたしは鍛冶もやります」「鍛冶工もすでにいる」「戦士でもあります」「優れた戦士は大勢いる」「竪琴も弾けます」「音楽家もいる」「戦争のいろいろな技術にもたけています」「そういう戦士もすでにいる」「わたしは詩人です」「詩人もたくさんいるのだ」

という長いやり取りの後、「では、今言ったことをすべて一人でできる者はいますか」とルーは尋ねます。「そう言えば、そういう者はいないな」と門番は首をひねって、ヌアダ王に「何でもできる男(イルダーナフ)」が来た、と告げます。

ヌアダ王はすぐさまルーが気に入り、ルーに全軍の指揮権を与えました。こうして、ルーを指揮官とする第二次マートゥーラの戦いが幕を開けるのです。

魔眼のバロール、孫に殺される

すでに気づいた人もいるでしょうが、ルーはダーナ神族とフォモール族の混血です。ダーナ神族のキアン、フォモール族の長バロールの血を引いているのです。

つまり、ルーは光の神と闇の神の間に産まれた神と言えます。

すでに古く老いた神々であるダーナ神族は、この若い「異界」から突然やって来た神によって力を取り戻し、闇の神フォモール族と壮絶な戦いを繰り広げます。鍛冶の神ゴヴニュは折れた槍や矢を一瞬で元通りにし、医術の神ディアン・ケヒトは戦死者を「健康の泉」に放り込んで生き返らせます。

そして、ついにルーと魔眼のバロールの戦いの時が訪れるのでした。

「健康の泉」の秘密がフォモール族にばれ、泉が埋められてしまったことでダーナ神族は苦境に陥ります。しかし、ルーはすかさず前線に躍り出て全軍を鼓舞。バロールに戦いを挑みました。

バロールはいつもは魔眼をつぶっていますが、この時は自分に挑戦してきたルーの顔を見ようと、瞼を開こうとしました。

瞼が完全に開いたら、その魔眼から発する光で死んでしまいます。ルーは瞼が少し持ち上がったそのすきに、素早く石弓で目を射抜きました。巨大な目玉はバロールの頭から飛び出し、フォモール族の上に落ちて大勢の犠牲者を出しました。これにより、フォモール族は敗走。海のかなたへと姿を消したのでした。

かくして、バロールの「孫に殺される」という予言は成就しました。ルーはダーナ神族の王座に就き、光と文明の世界を築いたのでした。(ヌアダ王は第二次マートゥーラの戦いで戦死)

出版した本

三国志より熱を込めて三国志より熱を込めて 通勤時間で読める三国志
ショートショートのエッセイで書き下ろした三国志。 呂布、孫策、周瑜、曹操、馬超、劉備などの英雄たちの人生を、ショートショート一話ずつにまとめました。 英雄たち一人一人の人生を追いながら、三国志全体のストーリーに迫ります。
あなたの星座の物語あなたの星座の物語
星占いで重要な、黄道十二星座。それぞれの星座にまつわる物語を詳しく紹介。 有名なギリシャ神話から、メソポタミア、中国、ポリネシア、日本のアイヌ神話まで、世界中の星座の物語を集めました。
曽我兄弟より熱を込めて曽我兄弟より熱を込めて
日本三大仇討ちの一つ、曽我兄弟。鎌倉時代初期、源頼朝の陣屋で父の仇討ちを果たしたという、実際にあった大事件です。戦前は誰一人として知らない者はいなかった兄弟の物語ですが、現代ではほとんど知られていません。 本書では、知識ゼロからでも楽しんで読めるよう、物語の見どころを厳選してエッセイにまとめました。
新講談 山中鹿之介新講談 山中鹿之助
「我に七難八苦を与えよ」と三日月に祈った名将、山中鹿之介。 戦国時代、出雲の小国尼子は、隣国毛利に滅ぼされる。主君を失った尼子の家臣は、皆散り散りに――。しかし、ただ一人、山中鹿之介は主家の再興を目指して、ひたすら戦い続けるのだった。 戦前、講談で大人気を博した山中鹿之介の人生。兄から託された三日月の兜(かぶと)、鹿と狼の一騎討、布部山の大戦、上月城の壮絶な最後など、見どころを厳選してまとめた、新しい講談本。
忠臣蔵より熱を込めて忠臣蔵より熱を込めて
江戸時代から長く愛され続けている忠臣蔵の物語。四十七士の内、大石内蔵助、武林唯七、堀部安兵衛、杉野十平次、岡野金右衛門、赤垣(赤埴)源蔵に焦点を当てて、全体のストーリーを追います。広く知られている講談や芝居のエピソードから、覚書や遺書に見られる史実の姿まで紹介します。