【オセアニア神話】天地の創造 ランギとパパ
紺碧の太平洋に点在する、大小の島々、オセアニア。その範囲には、オーストラリア、ハワイ諸島、イースター島などが含まれます。
この太平洋の島々にも、人類は紀元前の昔から定住していました。カヌーしか持たない古代人が、荒れ狂う太平洋を渡って、何百、何千キロも離れた島と行き来していたとは信じがたい事実ですが、たしかに島々は頻繁な交流を持ち、互いに文化を深め合っていたということを神話が証明しています。
広大なオセアニアは、「オセアニア神話」という一つの文化を共有していたのです。
オセアニアの天地創造神話
オセアニアの神話は、大体の骨組みはあるのですが一つにまとまっていません。これは、オセアニアに多くの島があるためです。同じ話でも何パターンもあることがあります。
今回紹介する「天地の創造」も、全く異なる2パターンがあります。創造主タアロアが1人で世界を創造する話。そして、天の神ランギと大地の神パパが二人であらゆる生命を生み出すという話です(この話だとタアロアはランギとパパの子供の一人にすぎません)。
タアロアはもともと海の神だったのが、徐々に格が上がって創造主となった神です。おそらく民族の力のバランスなどが関係して、神の格が上がったのでしょう。物語としては、天と大地の神が二人で世界を創造した、というもののほうがより古く、より広く信じられていたと思われます。
天の父ランギと大地の母パパ
初め、天と地はぴったりとくっついていました。天の父なる神ランギと大地の母なる神パパはあまりにも深く愛し合っており、ふたりは固く抱き合って離れなかったからです。
あまりにも長い時間、ランギとパパは抱き合っていました。二人の間に多くの生命が生まれ、神々が生まれてもなお、離れようとはしませんでした。ぴったりと抱き合った二人の身体の間に、挟まれるようにして神々は暮らしていました。
これら子どもの神々の中に、トゥ、タネ、タアロア、ロンゴ、ハウミア、タウヒリがいました。
彼らは長い間父と母の間に押しつぶされるようにして暮らすのに飽き飽きしました。ついに「怒り顔のトゥ」が叫びました。
「もうたくさんだ。父と母を殺してしまおう」
「それはいけない」と、タネが反対しました。森の神であるタネは穏やかな神だったのです。「二人を離せばよいのだ。天を我らの頭の上に、大地を我らの足の下におこう」
「なぜそんなことをする」タウヒリだけが父と母を離すことに反対を唱えました。彼は嵐と雨の神でした。「父と母は愛し合っているのだ。なぜ引き離そうとするのだ。二人の嘆きを考えないのか」
子どもの神々はさんざん暗闇の中で議論し、ついにタネの意見に皆同意しました。しかし、タウヒリだけは最後まで反対しました。
それから皆はランギとパパを引き離そうとして、両手両足を使って踏ん張りました。でもランギは重く、びくともしませんでした。最後にタネが試しました。タネは両腕が短かったため、頭と足を使って踏ん張りました。タネはランギとパパの泣き叫ぶ声には耳も貸しませんでした。ついに、天と地は離れ離れになったのです。
以来ずっと、天と地は離れて暮らしています。でもパパのため息は霧となってランギに舞い上がり、ランギの涙は雨となってパパに降りかかるのです。
嵐の神タウヒリの怒り
最後までランギとパパを引き離すことに反対したタウヒリは、兄弟たちの行動に激しく怒って、東西南北に嵐と風を巻き起こしました。すべての激しい風、あらゆる雨が荒れ狂いました。
森の神タネの木々はなぎ倒され、タネの大切な森の動物たちは逃げまどいました。
魚と爬虫類の神タアロアの魚たちは海に逃げ、爬虫類は森へ逃げました。このとき、タアロアは爬虫類たちが自分の海ではなくタネの森に逃げたことを怒りました。以来、ずっとタネとタアロアは争っています。森の神タネは、植物からカヌーや釣り道具、網などを作り、海の神タアロアの大切な魚たちを捕らえようとします。一方、タアロアは恐ろしい波でカヌーを沈めようとし、木々や土地、家などを沈めようとします。打ち寄せる波で、徐々に海岸線を削り取り、森を根絶やしにしようとたくらんでいるのです。
タウヒリの怒りは静まりません。農業の神ロンゴと、植物の神ハウミアは大地に取りすがって隠れました。戦いの神トゥだけが、タウヒリに立ち向かい戦います。そしてついにタウヒリに勝つのです。
タウヒリの嵐が荒れ狂った間、大地は洪水で水びだしになりました。その後、明るい光が大地に差し込み、あらゆる生命が増えることになるのです。