【オセアニア神話】もう一つの天地創造 創造主タアロア
オセアニアには、「ランギとパパ」のほかにも別バージョンの天地創造神話が存在します。有名なのはタアロア神による天地創造です。
ここでは、タアロアとサポート役のタネ(最初の男)の神話を紹介しましょう。
殻の中に入っていた世界
最初、世界はココヤシの実のように殻の中に入っていました。
このように世界の「核」となるものが「殻」の中に入っていたというのは、世界中にある神話です。インドにも見られますし、オセアニアのいたるところにも存在します。ときには「卵に入っていた」とも、「木の実のように殻の中に入っていた」とも表現されます。古代の人々は不思議な想像力で「ビック・バン」を想像していたのかもしれません。
その殻の中に、最初の神タアロアは住んでいました。タアロアには親もなく、彼は自分で自分自身を成長させました。とうとう彼は殻を破って外に出ましたが、暗黒以外何もありませんでした。天も、大地も、海も月も太陽もなかったのです。果てしのない孤独にタアロアは襲われ、彼は慌てて新しい殻を作り、その中に引きこもって何百億年もその中で瞑想にふけっていました。
しかし、タアロアはついにその中から出て、全てを創造することにします。新しい殻を大地にし、古い殻を天にしました。タアロアが羽ばたくと(翼を持っていたので)数知れぬ羽が大地に落ちて、それらが草木に、バナナになりました。
こうして、大地と天を作り、数々の命を産み出していったタアロア。しかし、一つ困ったことがありました。この頃、天と地を巨大なタコが足できつく巻き付けていて、天地の隙間がほとんどなかったのです。
天と地を引き離したタネ
巨大なタコが天と地を離さなかったので、たくさんの生命は暗闇の中に閉じこめられていました。
タアロアが生み出した神々、半神たちが、必死に天を持ち上げようとします。しかし、どれも失敗に終わりました。
最後にやって来たのが、タアロアが生み出した美しい神「タネ」(男という意味です)でした。
タネは貝殻で作った斧を持ってきて、天(アテア)にカンカン打ち付けて穴を掘り始めます。天は痛がってワアワアと泣き叫びましたが、タネは無視。どんどん掘り進めて、とうとう大地に光が差し込んだのです。
光が差し込み、タコの足ははがれて落ち、ついに天と地は離れました。
それからタネは生命の場所を正しく決めました。天空に星を飾り、太陽と月を定めました。カメとクジラとアザラシとサメは海に。カメは砂の中に産卵するように。サケは海から川にさかのぼるように決めました。
タアロアって結局何者?
実に不思議な神話です。「ランギとパパ」に比べると実に複雑な印象を受けます。
「ランギとパパ」では、子供の一人にすぎなかったタアロアが、ここでは創造主となっているため、オセアニア神話を初めて読む人は混乱してしまいます。
オセアニア神話はいくつもの島にそれぞれの神話があった上に、今伝わる神話は大航海時代にオセアニアを侵略したヨーロッパ人が記録したものなので、かなり分かりにくくなっているのです。
タアロアはもともと海の神、漁師の神でした。オセアニアは海に囲まれた島々なので、もとはランギとパパの子供の一人にすぎなかったタアロアが、長い年月のうちに広く信仰されるようになったと考えられています。