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【北欧神話 第2話】天地創造!神々の王オーディンと巨人の父ユミル

世界の始まり

世界は最初、どのような姿をしていたのか?

これはその神話にも書かれる重要な場面です。

人間は常に、「すべてが産まれるその前は……?」と疑問に思っていたということでしょう。

この「世界の始まり」は、神話によって様々です。

「なんだかよく分からない、どろどろした海のようなものから陸地は産まれた」「巨大な卵があって、そこから宇宙が生まれた」などなど。

では北欧神話の場合はどうか?

それは、燃え上がる氷、かみつく火炎であった、と言います。

南の方にムスペルと呼ばれる領域があり、そこには猛り狂う炎が輝いていました。

ムスペルには黒い巨人「スルト」が住んでいて、彼は炎の剣を持って座っています。

スルトは世界が始まったその時からそこにいて、いつの日か世界が終わるとき、立ち上がって炎の剣ですべてを焼き尽くすのを待っているのです。

北の方は氷の領域でした。雪で覆われ、その中に一つだけ、凍らない泉がありました。

炎と氷の領域。この間には広いがらんどうの空間がありました。

泉の水は河になって、やがてこのがらんどうの空間に流れていったのです。

そして、そのしたたる水から、いつの間にか初めての生命が産まれたのでした。

ユミルとオーディンの誕生

水のしたたりから産まれたのは、一人の巨人ユミルでした。

ユミルはすべての巨人の父でした。

彼の汗や足からぞくぞくと巨人たちが産まれていきました。

ところで素朴な疑問。

ユミルは何を食べていたのか?

世界の始まりなので、氷と炎しかなかったはずでは?

それが神話の都合のいいところ。

実に都合良く、まったくいつのまにか牝牛が一頭存在していまして、ユミルはこの牝牛の乳をごくごく飲んでいたのです。

ではその牝牛は何を食べていたのか。

これもまったく都合のいいことに、神話の牝牛なのでこの牛は空腹になりません!

でも喉は渇くようで、いつもべろべろと氷をなめていました。

あるとき、牝牛が氷をなめていると、氷の中から神が一人出てきました。

何でそんなところにいたの? という気がしますが、神話なので突っ込みは禁止のこと。

北国の万年雪の中からは、よく大昔に死んだ動物が氷づけで出てきますから、古代人はこのことに神秘を感じたのかもしれません。

とにかく氷から勝手に出てきた神は、巨人女を嫁にして三人息子を持ちます。

この三人兄弟の長子がオーディン。万物の王になる神なのです。

ちなみに残りの二人はどうなのか。ヴィリとヴェーといいますが、ここでしか出てこないキャラなのでどうでもいいです。

ユミル殺害 この世で最初の死

少し説明した通り、神々と巨人は犬猿の仲でした。

なぜ仲が悪かったのか? ハッキリ言って、訳なんかありません。強いて言うなら「最初からそうだった」としか言いようがありません。神話では、「巨人族が気に入らず、憎むようになった」と語られています。つまり、神々にとって巨人族は「生理的に気に食わなかった」としか……。

とにかく巨人を嫌っていた神々。ついに巨人の父ユミルを殺してしまいます。これは、世界で最初の「死」でした。

天地創造 ユミルの身体から作られた世界

ユミルを殺したオーディンたち。神々はユミルの巨大な身体を運び、そこから世界を創りました。

肉からは大地を、骨からは山脈を、歯やあごからは岩や石を。流れる血は海となり、大地をぐるりと囲みました。オーディンたちはユミルの頭蓋骨を高く持ち上げ、それは天空となりました。

世界になるほど巨大なユミルを、オーディンたちはどうやって殺したの? と疑問に思ってしまいますが、それは神話なので気にしてはいけません。神々なので何でもできるのです。

それからオーディンは、炎の燃え盛るムスペルから火花を拾ってきて、それを「太陽」と「月」と「星々」にし、天空に据えました。こうして世界は形作られ、一日は「昼」と「夜」の二つの時間に分けられるようになったのです。

「死んだ巨人の身体から世界を創った」というのは、現代人の感覚では血生臭く、残酷なように感じます。しかし、古代人にとっては「死」は「生」の始まりでもあったのです。当然のことですが、どんな生き物でも、生きるためには他の生き物を犠牲にしなければなりません。我々は食事のたび、多くの生き物を殺しています。合理的な生活を送るようになった我々は「ほかの生き物の命を取っている」という感覚は希薄ですが、古代において、生と死は密接につながりあっていたのです。

ユミルの死は、他の多くの生命を繁栄させるための尊い犠牲であったのでした。

大地にうごめく小人たち。 アースガルドの建設

大地はユミルの死んだ肉から作られました。ですから、その腐った肉からは当然、ウジ虫がわきました。神々はそのウジ虫のことをちゃんと覚えていて、増えて大地の表に沸きだした彼らに、人間の姿と知恵を授けてやりました。

こうして生まれたのが、「小人」たちなのです。

皆さんは、白雪姫や指輪物語などで、小人たちを見たことがおありでしょう。彼らは、この神話から生まれたのです。彼らはたいてい親切で賢く、姫を助けてあげたり、土の中の家で悠々自適に暮らしていたりしています。が、もともとの神話では、その性格は大違いです。

ウジ虫から生まれた小人たち。当然ですがその姿は美しくありません。汚くて、顔はひん曲がっていて、不格好で、品格にかけています。顔が悪ければ性格も悪い。ケチで強欲で自己中です。

ですが、仕事の腕は確かです。大地の中からわき出した彼らは、大地の中の宝物、黄金や宝石を掘り出し、思うままに細工する力を持っています。その細工の才能は、神々も驚くばかり。ときどき、小人たちは黄金で素晴らしい宝物を作り、それをエサに神々を言いなりにさせたりします。神々もお宝には弱いのです。

話が少しそれてしまいましたが、小人たちは世界中に広がり、小さな洞穴や洞窟に住み着きました。そして神々はアースガルドを築き、そこに住んだのです。

アースガルドの下には、人間たちの住処ミッドガルドが広がっています。神々の王国と、人間たちの住処は、燃え立つ虹の橋「ビフレスト」でつながっています。

神々の王オーディンは、ときどきビフレストを渡って、人間たちのミッドガルドをさまよいます。あなたがもし、背の高い、眼光の鋭い老人を見かけたら、それは人間の姿に身をやつしたオーディンかもしれないのです。

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