【アーサー王あらすじ】バリン卿の「災いの一撃」
アーサー王のが抱えていた騎士の中で、最も不幸な運命を背負った騎士がバリン卿です!
バリン卿の悲劇は、アーサー王伝説の中でもかなり序盤なのですが、彼の冒険は円卓の騎士たち最大の冒険「聖杯探求」に深くかかわっていきます。バリン卿の悲劇を読まないと、「聖杯探求」は全然ワケ分かりません!
かならずこのお話を読んでから「聖杯探求」を読んでね!
主な登場人物
・バリン卿
・バラン(バリンの弟)
・マーリン
・剣の乙女
・ガーロン(悪い奴)
・ペレス王(カーボネック城の城主)
バリン、剣の乙女の剣を引っこ抜く
アーサー王がキャメロットを都にしたばかりの頃です。
ある日、唐突に一人の乙女が城にやって来て、長いマントを脱ぎました。すると!乙女の腰にはエラく大きな一振り、くくりつけてあります。
「どうしたんですか、その剣は?乙女にふさわしくありませんね」
「王様!わたしはこの呪われた剣に苦しめられてるんです。この剣を鞘から抜いてもらえれば、わたしは解放されます。でも誰も成功しません。そのため、わたしはずっと重い剣を吊っていなければなりません。この剣は、誰よりも行い正しく、心に汚れのない騎士でなければ抜けないのです。この宮廷には立派な騎士様が揃っていると聞いてやって来ました」
「ほほう、それは不思議な話だ」
そこで、何人もの騎士たちが「我こそは」とチャレンジ。でも、剣はビクともしません。剣の乙女は
「ああ!やっぱりダメなんですね!」
と半泣き状態。アーサー王は苦り切ってます。
……アーサーが抜けばいいじゃんと思ってしまいますが、アーサーはこのちょっと前に、父親違いの姉に手を出しちゃって「自分は汚れてるし……」と知ってたし、最強の騎士のランスロットも、アーサーの妃グウィネヴィアと不倫中なのでココロが汚れてるんです。
と、そこへ!
「わたしにやらせてください」
と、一人の騎士が名乗り出ました!
この人、バリン卿といって、行き違いからアーサーの従弟を殺してしまい、最近まで牢屋暮らししていた人。なので注目されてなかったのです。
「わたしはノーサンバランドの貧乏な騎士です。この通り身なりもみすぼらしいですが、騎士の真価は衣服では決まらないはず」
それでは、とバリンが手を掛けると、剣はスルッと抜けたのでした!
湖の乙女を殺しちゃったバリン卿
さて、バリン卿に剣から解放してもらった剣の乙女、小躍りするばかりに喜んで、
「ありがとう、バリン卿!では、わたしにその剣を返してください」
……ところが、すでに手遅れ。バリンは自分が抜いた剣を見た瞬間、この剣の魔力に心を奪われてしまっていたのでした。
「ダメです。これは渡しませんぞ」
と、てこでも動きません。
「それはいけません、返してください。それは呪われた剣ですから、ロクなことになりませんよ。この剣を持った人は、最も愛する人を自分の手で殺す運命にみまわれるのです」
「それは運に任せます。とにかく剣はわたしのものです!」
ヤバいくらい不幸になるよ!って言われてるのに、全然聞く耳持たないバリン!剣の乙女はしおしおと城から退散。すると、入れ違いに湖の乙女が慌てた様子でやって来ました。
この湖の乙女、アーサーに聖剣エクスカリバーをプレゼントした大恩人。アーサーはこの乙女に「お礼に何でもしてあげます」と約束していました。
「アーサー王様!わたしとの約束を覚えてますね?今こそ果たしてください。先ほど剣の乙女の剣を抜いた、この騎士の首を私に下さい!」
これを聞いたアーサー王、「エッ!」と、ドン引き。
「そりゃダメですよ……」
と、ごにょごにょ言ってる間に、湖の乙女の顔に目を留めたバリン、
「ああっ!あの女、オレの身内を殺した女じゃないか!」
何と、この湖の乙女、アーサー王にはエクスカリバーをくれた恩人でしたが、バリンにとっては身内の仇だったのでした。
「ここで会ったが百年目!悪女め、思い知れ!」
バリンはすかさず剣を振り上げ、湖の乙女をバッサリ!
王様の前で、王様の恩人を思いっきり殺しちゃったのでした……(T_T)
マーリン、とんでもない災いを予言する
愛剣エクスカリバーをくれた恩人を、目の前で殺されちゃった、アーサー。もちろん大激怒です!
「あなたはもうキャメロットに置くわけにはいかない!」
と、キャメロットから追い出しちゃいます。バリン卿、後から追ってきた弟バランと一緒に、泣く泣く流浪の旅へ……。う~ん、すでに「持ち主を不幸にする」って予言が、じわじわと現実化していますね……。
さて、この湖の乙女が死に、バリンが出て行ったあと、魔法使いマーリンがひょっこり現れて、
「災いがこの国に入り込みましたぞ!あの剣の乙女は、とんでもない剣を持ってきたのです。あの剣には呪いがかかっている。バリン卿は、あなたの騎士たちの中でも、特に優れた者になるはずだったのに、呪いを受けてしまったのです。ああ、可哀想な男だ!これからもっと酷い災いが襲い掛かるでしょう」
と、サイアクな予言。
マーリン、こんなに先のことが分るなら、もうちょっと早く来ればいいのに……。登場が遅すぎますね。
バリン、目に見えない騎士に会う
さて、呪いがかかったままトボトボと旅を続けるバリン卿。キレた円卓の騎士に襲い掛かられて殺しちゃうわ。その騎士の恋人が「ヒドイわ!あなたのせいよ!」と叫びながら、バリンの目の前で自害しちゃうわ。戦に巻き込まれて弟バランと離れ離れになっちゃうわ……。
よくもまあ、こんなに!と、感心するほど、バリンにばっかり不幸が襲い掛かってきます。
さて、そんなとき、
「ああ~!オレほど不幸な男はいない!」
と、猛烈に嘆きながら道を歩いてる騎士が一人。
「もしもし、どうしたの?」
と、バリンが聞いたちょっと後、イキナリ目に見えない何者かが、その騎士をバッサリ斬って、どこへともなく行ってしまったのです!
斬られた騎士は、末期の息でバリンに懇願。
「あれはガーロンという、姿を消すことができる悪い騎士です。このちょっと先に、わたしの連れの姫がいるから守ってやってください。いいですか、姫をメリオット城まで連れて行くんですよ。それからあのガーロンを倒してください。ああ~!もうダメだ!オレは死ぬ!」
言うだけ言って、死んじゃった騎士。ワケの分からないまま、バリンは連れの姫のお供をすることに。
メリオット城で超苦しんでる息子の話を聞く
なんだかんだとお人好しなバリン、全然関係ない姫と一緒に旅を続けて、メリオット城までやって来ました。
城主は見ず知らずのバリンを歓迎してくれたのですが、その晩、夕飯をみんなで食べていると、隣の部屋から
「う~ん、う~ん、死ぬ~!助けてくれ~!」
と、ひどいうめき声が!
「城主、あれは何です⁈」
と、バリンが尋ねると、
「あれは息子です。実はですね、この近くのカーボネック城に悪い騎士がいて、その男は姿を消す超能力の持ち主なんです。それでわたしの息子を傷つけたのですが、その傷は、あの悪い騎士の血をペタペタ塗ってやらないと治らないんです」
と、城主が告白。なんで血を塗らなきゃ治らないのか謎ですが、魔法の国だから気にしないこと!
「ああ!それはガーロンという奴です。わたしは約束でそいつを倒さなきゃならないんですよ。どこにいますか?」
「カーボネック城で今度宴会がありますから、そこで会えますよ。案内しましょう」
ということで、カーボネック城へガーロン捜しに出かけることになったバリン!ガーロンなんてバリンには全然関係ないのに、ちゃんと約束を守るために出かけるバリンはいい奴です……。
カーボネック城でガーロン殺害!激怒するペレス王
城主は「近くの城」とか言いましたが、カーボネック城は片道三日。全然近くないです。
さて、バリンが城に入ると、そこは大宴会の真っ最中!みんなイイ~感じに酔っぱらってて、浮かれ切ってます。ガーロンもそこで御馳走食べてました。
「よし!あれがガーロンだな!」
バリンはツカツカと側に行くと、
「おい、ガーロン!殺しに来たぜ!」
と、イキナリ剣を抜いてガーロンをグサリ!メリオットの城主は入れ物を持ってきて、「よし、これで息子は助かる!」と、好きなだけ血をとります。
が、目の前でガーロンを殺されたカーボネック城主ペレス王は黙っていません!実はガーロン、このペレス王の弟だったんです!
「よくも弟を殺したな!ええい、許さん!殺してやる!」
と、目を血走らせてバリンを追っかけてきました!
どこまでも追っかけてくるペレス王。バリン、ヘンな部屋に入る
「殺せるもんなら、殺して見ろ!」
と、持っていた剣でペレス王の一撃を受け止めたバリン!
ですが、ペレス王の怒りのパワーは半端じゃありません。一発でバリンの剣はコナゴナに……。
「これはヤバい!」
と、バリンは代わりの武器を求めて隣の部屋へ。でも、見渡しても短剣一本ありません。
「わあ~!どうしよう!」
慌てたバリンは次々に別の部屋へ走っていきますが、どの部屋にも武器はありません。後ろからはアドレナリンを大放出しまくってるペレス王が
「待て~!ぶっ殺すぞ!」
と叫びながら追っかけてきます!
「ああ~!ピンチだ!」
焦ったバリン、あっちこっちの廊下を走り、階段を駆け上り、ある奥まった一つの部屋の前へ。
と、そのとたん、
「この部屋へ入ってはならぬ!」
という声が、頭の上から降ってきました。
「ええ!」
と、見渡しましたが……誰もいません。後ろからはペレス王の足音と怒鳴り声が迫ってきます。
「このままじゃ殺される!」
と思ったバリン。ドアを開けて部屋へ飛び込みました!
宙に浮いてる槍と光り輝く杯
バリンが飛び込んだ部屋は、大理石のアーチがある美しい部屋でしたが、真ん中の祭壇には奇妙なものがありました。
まず、祭壇の上には大きな銀の盃が真っ白な絹をかけてあるのですが、バリンの眼には、この杯の中が光で満ちているように見えました。真夏の光よりもまぶしくて、目を開けていられないほどでした。
そして、この祭壇の上には、一本の槍が、何の支えもないのに宙に浮かんでいました。
槍は切っ先を下に向けているのですが、この切っ先からは絶えず鮮血が滴っていて、その血は地面に触れる前に消えてしまうのです。
この光景を見た瞬間、なぜかバリンは全身ががくがくと震えて、思わず跪いて祈らなければならないような気がしました。
が、後ろからバタバタとペレス王の足音が聞こえて、バリンはハッと正気に戻ります。
「災いの一撃」!崩れ去ったカーボネック城
「もうやるしかない!」
と、決心したバリン。
またもやどこからともなく、
「罪びとよ、触ってはならぬ!」
と声がしましたが、かまってはいられません!とっさに空中浮遊してる槍をとると、振り向きざまペレス王をグサリ!
そのとたん、カーボネック城全体がガタガタと震え、恐ろしい烈風が巻き起こりました!
そして、泣き声と叫び声がぐるぐると渦巻く中、カーボネック城は崩れ去ってしまったのです。バリンは烈風のなかできりきり舞いしたあげく、地面にたたきつけられて気を失ってしまいました。
マーリン、またひどいことを言う
バリンが目を覚ましたのは、城が崩れてから何と三日後!
起きるとそこにはマーリンが立っていて、
「何ということをしたのだ、バリン」
と、首をフリフリ。
バリンが「わたしが連れてきた姫は?」
と聞くと、
「ごらん。あそこで死んでいる」
と答えます。
「いいかね、バリン。お前があの部屋で見たものは、キリスト教徒にとって最も神聖な宝。聖杯とロンギヌスの槍だったのだ。聖杯はキリストが最後にお使いになった杯。ロンギヌスの槍は十字架にかけられたキリストを刺し、その血を受けた槍である。
実は、カーボネック城の代々の城主は、キリストの弟子アリマテヤのヨセフの子孫なのだ。ヨセフはイギリスにキリストの教えを広めるために、この二つの宝を持ってここへ来たのだ。カーボネック城代々の城主は、ヨセフが残した宝をずっと守り続けていたのだよ。
なのに、お前はロンギヌスの槍を使って、『災いの一撃』をペレス王に加えてしまった。神のお怒りは深い。お前の一撃の為に大勢の人が死に、三つの国は草一本生えない荒れ地と化してしまった。この呪いは長く解かれることはないだろう」
「そんな!わたしはどうしたらいいんですか!」
大泣きのバリンですが、マーリンは「どうしようもないね」と取り合ってくれません!
毎度のことですが、マーリンは登場するタイミングが遅いです!全部終わっちゃってから意味深に出てくるんじゃなくて、バリンがペレス王に追っかけられてるときに助けてくれりゃいいのに……。
バリンとバラン兄弟の死。マーリン、剣を川に浮かべる
マーリンと別れて傷心のバリン。トボトボとまた旅を続けますが、マーリンの言った通り、周囲は完全に荒れ地と化してしまってます。生き残った人々もボロきれみたいになっていて、
「ああ、バリン!お前のせいだ!お前のせいで皆不孝になったんだ!」
と、指をさして泣き叫びます。バリンはますます不幸のどん底に……。
と、相当歩いたところに、川岸に建つ城が見えました。
バリンがそこへ行くと、城のしきたりで
「この城に入る人は、川の中州にいる『川の騎士』と戦わなければならない」
と決められてると言います。しきたりには従わなければならないので、バリンはしぶしぶ兜をかぶり、鎧を着て戦うことに。
『川の騎士』は、紋章の付いてない黒い鎧兜に身を固めた騎士でした。当時の兜は「めんぼう」という、顔を全部覆ってしまうタイプなので、お互いに顔は見えません。
バリンと『川の騎士』は猛烈な勢いで戦いました!馬を飛ばして槍で突くと、激しさのあまり二人の槍は真っ二つ!両社とも馬から吹き飛ばされ、また立ち上げって、今度は剣で激しく斬り合いました!
二人の力量は、まったく五分五分だったのです。斬り合っているうちに、お互いに深い傷を七つも受け、ついにばったりと倒れてしまいました。
「き、君の名前を教えてくれ。これほど強い相手に出会ったことがない。わしの弟、バランは別だが」
「何ですって!わたしがバランです。兄さんと別れてから、この城に捕まって中州に閉じ込められ、今日まで『川の騎士』として、否応なしに戦わされていたのです」
「何ということだ!これまで生きていて、これほど情けない目に遭ったことがない!」
二人ともオイオイ泣きましたが、もうどうしようもありません。バリンとバランは近くに寄って来た城の奥方に
「わたしたちは兄弟です。互いにそうと知らずに殺し合ってしまったのです。どうか同じ墓に埋めてください」
と、泣く泣くお願い。二人は遺言通り、同じ墓に埋葬されました。
さて、ここでまた例によって、ぜ~んぶ悲劇が終わってしまってからマーリン登場。
「このバリンの剣には、まだ役目があるのだ」
と、例のバリンの呪われた剣をもらい受け、この剣を川岸まで持っていきました。
そして魔法で一枚の石の板に剣を突き刺し、そのまま川に流したのです。石の板はマーリンの魔法によって沈むことなく、ゆらゆらと揺れながら、川を流れていきます。
このバリンの剣、その後何年もたってから、ランスロットの息子ガラハッド卿によって引き抜かれることになるのですが、それまで誰一人剣を目撃することなく、誰も行方を知ることもありませんでした。