【北欧神話のあらすじ】ロキ、オッタルの賠償金をかき集める

いつも仲良しのオーディン、ロキ、ヘーニルがミッドガルドを旅行中、カワウソに化けてた魔法使いの息子を殺害!

マジギレした魔法使いによって、オーディンとヘーニルは人質に!ロキが慌てて身代金を集めるというお話です。

このお話、ヨーロッパではある意味「ラグナロク」よりも有名なお話!

実はこのお話こそ、「北欧のアーサー王」と呼ばれる英雄、ジークフリート物語の序章になってるからです。ワーグナーのオペラ「ニーベルングの指輪」や、あの「指輪物語」の元にもなったんですよ!

では、はじまり、はじまり。

主な登場人物

・ロキ
・オーディン
・ヘーニル
・オッタル(いきなり殺されるカワウソ)
・フレイドマル(マジギレの魔法使い)
・ファーヴニル
・レギン
・アンドヴァリ(超かわいそうな小人)

オーディン一行、晩御飯にカワウソをゲット

冬がそろそろ終わって春が来るな~、という季節。

オーディンとロキとヘーニルは、三人そろって代の旅好きなので、旅行日和になってきたぜ!と浮かれまくり、

「よし、ミッドガルドに旅行に行こうぜ!」

と、三人連れ立って楽しい旅に出かけました。

朝から虹の橋ビフロストを渡り、そろそろ暖かくなってきたミッドガルドをスキップしながらルンルン気分。ペチャクチャおしゃべりしながら楽しんでました。

午後を回った頃、滝の下に出た三人、

「おお!あんなところに晩御飯が!」

滝の側の岩の上に、大きなカワウソを発見したのです!

カワウソはサケを大事そ~に抱えて、岩の上でウトウト居眠りしてるのでした。

ロキがそ~っと石を掴んで、狙いを定めてカワウソの頭に一撃!見事にカワウソを撃ち取りました!

「どうだい、一石二鳥だろ」

と、満足気なロキ。三人はカワウソと、おまけのサケをゲットして

「これで美味しい晩御飯が食べれるぞ!」

と、ハッピーな気分で歩いていきました。

カワウソはカワウソじゃなかった!魔法使い大激怒!

さて、その夕方、三人は一件の農家を発見。

「やったー!野宿しないですむぞ!泊めてもらおう!」

ノックすると、農家の親父が出てきたので、代表のオーディンがご挨拶。

「旅のものです。泊めてください。食料も持ってますから」

「ほほう、その食料は、わしや子供らの分まであるかね」

「たっぷりありますとも!見てください、このカワウソ。美味しそうでしょ」

ロキがニコニコとカワウソを見せると、突然農家の親父は

「こ、これは……!」

と、顔色を変えました。そして、

「ちょっと、息子たちと話してくるから」

と、奥に引っ込んでしまったのです。オーディンたちは

「どうしたのかなあ?」

と首をひねるばかり。

……実は、この農家の親父、きったない百姓みたいなのは仮の姿。本当は力のある魔法使い、フレイドマルなのです!

そして、あのカワウソは、カワウソに姿を変えてた息子で、フレイドマルの長男だったのでした!

フレイドマルは奥へ走って行って、残りの二人の息子たちと談合。

「おい、お前らに兄のオッタルが殺されたぞ!」

「ええ!何でだよ、親父!」

「旅の奴らがオッタルを殺したんだ。そして今、奴らは玄関にいる。

いいか、俺が魔法をかけるから、奴らを縛っちまえ。一人は槍を持ってるから取り上げろ(オーディンのこと)。もう一人はヘンな靴を履いてるから、脱がせろ(ロキのこと)。後の一人は別にどうってことないから、縛るだけでいいぞ(ヘーニルのこと)」

「よし!合点だ!」

オーディン一行、ぐるぐる巻きにされる

こうして打ち合わせをした魔法使い親子。

厳寒でボーッと待ってるオーディンたちのところへ行くと、

「それ!」

と、まずフレイドマルが魔法をかけます!それを合図に、息子たちのファーヴニルとレギンが

「やっちまえ!」

と、飛びかかりました!

魔法をかけられて神様パワーの低下してしまったオーディンたち、油断していたのもあって、オーディンは槍のグングニルを取り上げられてぐるぐる巻きに。

ロキも床にベシャッと押し倒されて、空飛ぶ靴を脱がされ、これもぐるぐる巻きに。

ヘーニルはろくに抵抗できずに、フツーにぐるぐる巻きにされちゃいました。

賠償金を払え!頑張れロキ!

ミノムシみたいにロープで巻かれて、床に転がされちゃったオーディンたち。

「イキナリ何するんだ~!」

と、悲鳴を上げます。

「何するんだだと!ふざけんな!あのカワウソは、俺の息子なんだぞ!」

「そうだ、オッタル兄貴だ!オッタルはカワウソに姿を変えて、いつも川で魚を取ってたんだ。腕のいい漁師だったんだぞ!」

「そんな!何も知らなかったんだ!知ってたらロキは殺さなかったし、だいたい知っていたらこの家に来るもんか!」

オーディンが必死に訴えるも、キレた魔法使いは聞く耳持ちません!

「死んだものは死んだんだ!お前たちの首も肩から落としてやる!覚悟!」

「ま、待ってくれ!賠償金を払う!それで許してくれ!」

この訴えに、ようやく魔法使いの親父も考えを変えます。

「よし、じゃあ、まずはオッタルの皮の中いっぱいに黄金を詰めろ。それから、黄金詰めになったオッタルを、また黄金で覆い尽くせ。毛の一本も見えちゃダメだぞ。それが条件だ!

お前たちの内、一人が黄金を取りに行け。二人は人質としてここに残るんだぞ」

……考えただけでも、ものすごい量の黄金です!ムチャクチャな条件でしたが、三人の首がかかってるので仕方がありません。

縛られてるオーディンはロキの方にコロコロ転がって行って、

「ロキ、お前が集めに行ってくれ。早く帰って来いよ」

こういう無理難題の時は、ロキの悪知恵に頼るに限ります!

「分かった、オーディン。ぼくが集めてくるよ。おい、フレイドマル!縄を解いてくれ。すぐ行ってくるから」

「よし、解いてやる、でも、あのヘンな靴はまだ返さないからな」

こうして縄を解いてもらったロキ。すごいような視線でニヤッと笑ったので、思わずフレイドマルもギクッとしましたが、次の瞬間にはロキは外へ走り去っていったのでした。

ロキ、小人の黄金をごっそりゲット

さて、オーディンとヘーニルを救うため、ロキはミッドガルドを横切り、海神エーギルの館へ走りました。

館につくと、エーギルの奥さんラーンに向かって、

「あなたの網をぼくに貸してくださいよ。それでオーディンとヘーニルを助けるんだから」

と頼み込みました。この「ラーンの網」というのは、女神ラーンが溺死者を引き上げるために使う網です。

網を借り受けると、ロキはそれを持って黒妖精の世界(小人の国)へ下りていき、真っ暗い地下道を進んでいきました。

この地下道の底には冷たい沼があって、そこに魚が泳いでいます。ロキは網を使って一匹のカワマスを捕まえると、

「さあ、捕まえたぞ!姿を変えるんだ!」

と、カワマスを掴んで叫びました。

すると、カワマスはたちまち小人の姿に!このカワマス、小人の中でも特に金持ちのアンドヴァリが姿を変えたものだったのです。

「ひい、やめてくれ!何が欲しいんです!」

「ぼくが欲しいのは、お前の黄金全部さ。さあ、全部出せ」

「出します、出しますよ!」

ロキに捕まっちゃったアンドヴァリは、しぶしぶ洞窟の奥へ行って、黄金のしまってある鍛冶場へ。そこには金の延べ棒だの円盤だのが山のように!

「さあ、これを全部集めるんだ。袋に詰めろ」

ロキにせっつかれて、アンドヴァリは黄金をどんどん袋詰めにします。しばらくすると、大きな袋が二つ、黄金でパンパンに!

アンドヴァリはその袋を鍛冶場の前に引きずってロキに渡しましたが、ロキはその時、アンドヴァリが小さな指輪をサッと隠したのを見逃しませんでした。

「その指輪も出せよ。お前が隠すのを見たぞ」

するとアンドヴァリは顔色を変えて、

「これだけは勘弁してください。これだけは頼みます。この指輪を持っていれば、わたしはまた黄金を増やすことができるんです」

小人は必死に頼みましたが、ロキは「もしオッタルの皮を隠すのに黄金が足りなかったら困る」と考えたので、

「その指輪もよこせ」

と、容赦なくアンドヴァリの手をこじ開けて没収!

取り上げてその指輪を見れば、小さいけれども見たこともないほど素晴らしい細工です。ロキは指輪を自分の指にはめ、袋を担いで「あばよ」と撤収。

身ぐるみはがされたアンドヴァリは怒り心頭です!ロキの指輪を指さして、

「その指輪を持っていけ!その指輪にはわしの呪いがかかっているぞ!それは所有するものに死を招き、不和の種になるだろうよ。誰も、わしの財産で喜びを得ることはできないぞ!」

するとロキはくるっと振り返って、

「それならますます結構さ。この黄金の次の持ち主に伝えておいてやるよ。そしたらアンドヴァリ、お前の呪いはそいつに譲られるんだからな」

カワウソを黄金でパンパンにする

まんまとアンドヴァリの財産をむしり取って、フレイドマルの館に帰ったロキ。

待ちくたびれてたオーディンは大喜びで迎えます。ロキは山のような黄金を床に下ろして、

「こいつはどうだね」

と、指輪をオーディンに見せました。オーディンは指輪の細工のあまりの美しさに驚いて、

「そいつは価値のある指輪だ」

と、フレイドマルの目を盗んでこっそりネコババ。

フレイドマルと息子二人は、黄金の山を見て、ようやくオーディンとヘーニルの縄を切ってくれます。

オーディンはまず、カワウソの皮の中に黄金をぎゅうぎゅう押し込みました。

頭のてっぺんからしっぽまで詰め終わると、次はこれを覆い尽くします。袋の中の黄金を全部積むと、カワウソはすっかり包まれてしまいました。

「よしよし、毛の一本まで見えなくなったか?」

フレイドマルはニヤニヤしながらカワウソをチェック。ぐるぐると周りを歩いていましたが、そのうちひげが一本だけ隙間から出ているのを見つけて、

「ここだ!まだひげが残っているぞ!これも覆い尽くすんだ!」

とガミガミ不平を言い出しました。

こうなったら仕方ありません。オーディンはイヤイヤながら指輪を外し、それをひげの上へポイッ。

「これで我々は、オッタルの賠償金を全部支払ったぞ」

と言いました。

小人の呪いを魔法使いにぶん投げ。助かったオーディンたち

こうして、ようやくフレイドマルを納得させたオーディンたち。

槍のグングニルと空飛ぶ靴も返してもらったので、オーディンとロキはやっと一安心。

これでフレイドマルの館を出ていくことができるのですが、戸口のところに立つや、ロキは急に振り返って、

「黄金は渡したぞ。俺の命と引き換えにたいそうなものを手に入れたな。だがよく聞け!お前と息子たちに幸運は舞いこまんぞ。これがお前たちの命取りになるのだ。

いいか、この黄金は小人のアンドヴァリの財産だ。俺は呪いを受けながらもぎ取って来たのだ。小人が言ったことを教えてやろう。

その指輪を持っていけ!その指輪にはわしの呪いがかかっているぞ!それは所有するものに死を招き、不和の種になるだろうよ。誰も、わしの財産で喜びを得ることはできないぞ!」

フレイドマル親子はその言葉を聞いていましたが、すでに黄金に目がくらんでいる三人の耳には入りません。

「黄金は俺の生きている限り手放すものか!貴様なんぞ怖くはない。さっさと帰れ!」

こうして、オーディンとロキとヘーニルは三人そろって、また旅をつづけたのでした。

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