【北欧神話のあらすじ】ロキ、バルドルを殺害する

北欧神話のトリックスター、ロキ!

ロキの活躍は、ここまでは「いたずら者」といった感じでしたが、ここからは本格的に「悪役」になっていきます!巨人族としての本性をむき出しにしていくって感じです。

北欧神話もラグナロクにむけて、いよいよ佳境に入っていきますよ!

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主な登場人物

・ロキ

・バルドル

・ホズ

・オーディン

・フリッグ

・女予言者

・ヘル

・ヘルモード

バルドル、変な夢を見る

光の神バルドルはオーディンとフリッグが溺愛してる息子で、「あらゆる神々の中で一番きれいで、優しくて、何にも悪いことしたことない」と評判の神様でした。

つまり、何一つ汚れたところがないピカピカの神様だったので、誰からも愛されてたし、言うことやること全部模範解答!という神様だったのです。

ところがある日、このバルドルが超ヤバイ悪夢を見ました。真っ黒い人影に襲われて、逃げられなくって、殺されちゃうというような内容だったので、バルドルはうなされまくって「ウギャー!」と悲鳴を上げて目覚めました。

周りの神様たちは

「これはきっと、悪いことが起きる前兆に違いない!バルドルを守らないと!」

と、心配しきり。

中でも一番心配したのは、もちろんバルドルの両親、オーディンとフリッグです。

オーディンは急いで八本足の名馬スレイプニルに行って冥界へ行き、昔死んで塚に眠っている女予言者を尋ねに行ったのです。賢い女予言者の魂なら、未来のことまで見通すことができるからです。

オーディン、女予言者とおしゃべりする

オーディンが呪文を唱えると、ボワ~ッと女予言者の亡霊が現れます。

「誰だ、わたしを無理矢理起こすのは。雪はわたしの上に降り積もり、雨はわたしを打ち、露はわたしを貫いて、わたしは長い間死んでいた」

「わしの名は《さすらうもの》ヴェグダムというものだ」

と、オーディンは大ウソついて、

「わしにヘル(冥界)のことを教えてほしい。冥界は誰を待っているのか?」

「冥界では、輝く蜜酒をバルドルの為に用意している。神々は絶望に満たされることだろう。わたしはこれ以上話したくない。今はこれ以上、何も言うまい」

女予言者は帰ろうとしますが、オーディンは待ったをかけます。

「お前はとどまって、わしが尋ねる全てに答えなければならない。バルドルを殺害するのは誰だ」

「盲目のホズが、バルドルの命を奪う枝を運んでくる。彼がオーディンの息子の血を流すだろう。わたしはこれ以上話したくない。今はこれ以上、何も言うまい」

話したくないと女予言者は繰り返し言ってますが、オーディンは「ダメだ、語れ」をぶった切ります!

「ホズに復讐する者は誰だ。バルドルの殺害者を、積まれた薪の上に運ぶのは誰だ。哀悼の歌を唱え、スカーフを空に放り上げる乙女たちは誰だ」

と、ガンガン質問攻め。

女予言者はブツブツ言いながらも答えていきますが、あんまり質問攻めにするオーディンに、最終的にキレます。

「おまえはヴェグダムではない。お前はオーディン。年月そのもののように年老いたオーディンであろう。馬に乗ってお帰り、オーディン。そしてお前の腕前を誇るがいい。ロキが足かせから自由になり、すべての暗黒の力がラグナロクの前に集まるまでは、二度と誰も私を起こすことはないだろうよ」

フリッグ、あらゆるものに約束させる

バルドルはヤバすぎる夢を見たし、女予言者は「バルドルは死ぬ」って断言したし、いよいよもって、バルドルの生命が危機にさらされてることは明らかです。

そこでお母さんのフリッグは、世界中あらゆるものに

「バルドルを傷つけてはならない」

と誓いを立てさせます。

純粋無垢で一点の悪もないバルドルだし、フリッグに逆らうのは怖すぎなので、世界中のあらゆるものは「いいよ」と誓いを立てます。

火も誓ったし、水も鉄も、他のすべての金属も、石も草も木も病気も誓いました。

こうしてあらゆるものが誓うと、神々は満足して

「よし、じゃあ本当にバルドルが傷つかないか試してみようじゃないか」

と、確認することにしました。

一人が石を投げてみますと、石は間違いなくバルドルに当たったはずなのに、すとんと落ちてバルドルは傷一つありません。

「よし、これで大丈夫だ!」

神々はけっこう気楽なので、すっかり安心して大笑いしました。

ロキ、フリッグとおしゃべりして、ヤドリギを取りに行く

石や枝を投げてみても、バルドルは全く傷つきません。

そのうち神々は大胆になってきて、槍でついてみたり斧で切ってみたりしました。でも矢は跳ね返るし、斧や槍はかすりもしないし、バルドルは無傷!

「こりゃ、すごいぜ!何やっても平気だ!」

神々はバルドルにけがをさせることができないのをうれしがって、ワイワイと楽しんでました。

が、それを見ていたロキだけはイライラしてました。

ロキはもともと、罪や悪いことが一つもなくて、キレイすぎるバルドルが好きじゃありませんでした。バルドルがあらゆるものから守られて、傷一つ負わないのを見ると、むらむらと憎しみが沸いてきました。

しばらくロキは神々がバルドルに武器を投げて笑っているのを眺めていましたが、急に一つの考えがひらめいて、ニヤッと笑いました。そしてすぐさま、老婆の姿に化けてフリッグの元へ急ぎました。

「まあまあ、わたしゃ向こうで恐ろしいものを見ました。一人のかわいそうな人に、みんなが石だの武器だのを投げつけてるんです。きっと死んじまうでしょうよ!」

老婆に化けたロキが大げさに心配してみせると、

「おばあさん、大丈夫ですよ」

と、フリッグはあらゆる物がバルドルに誓いを立てて事を説明してやりました。

「あらゆるものが?本当に全部ですかね?」

「ええ、全部ですよ。ただ、ヴァルハラの西に一本だけ小さなヤドリギが生えているのですが、これだけは誓いを立てるには幼かったので放っておいたのです」

「へえ、そうなんですかい」

老婆はお礼を言ってその場を去りましたが、やがて一人きりであるのを確かめると、すぐさま魔法を解いて元のロキの姿に戻りました。

さっそうとして平原を飛び越えてゆくと、時折エインヘイヤル(死んだ英雄たち)の叫び声が聞こえました。その不吉な悲鳴を聞くたび、ロキはにっこり笑い、口笛を吹きながら走っていきました。

やがて、小さな森の中にロキは問題のヤドリギを見つけました。

ヤドリギは木でありながら、大地に根を下ろさず、水にも触れず、宙に浮いているように他の木の幹から生えています。そのため、他のあらゆる木が持っていない不思議な力が宿っていることを、ロキは知っていました。

ロキは一本のかしの木からヤドリギを折り取って、その枝をベルトで磨き、皮をはぎ、先端を鋭くとがらせました。

そして、その枝を持って、アースガルドへ帰っていったのです。

ロキ、ホズをだましてバルドル殺害!

さて、ロキが戻ってきた時、神々はまだバルドルに石や武器を投げて、手を打って歓声を上げているところでした。

戦いの神チュールは槍を、トールはミョルニルをバルドルに投げつけて、バルドルはカラカラと笑っていました。

心配性の女神たちも、もうすっかりバルドルのことを安心して、いい男を捜してきゃあきゃあ騒いでいました。

オーディンすらも、誓いに信頼を置いているようなのを見て、ロキの目は怒りで燃え上がりました。ちょっとの間、ロキは体を折り曲げて、大笑いするように震えていました。

それから、ロキは召使が運んできたワインを一気に飲み干すと、庭の隅に立っているホズのところへ歩いていきました。

「ホズ、あんた何だって、みんなの仲間に入らないんだい?なんでバルドルに矢を投げないんだい?」

「なぜって、ぼくにはバルドルがどこに立ってるか見えないからね」

このホズは盲目の神で、こういう競技の時はいつだって仲間外れにされてるのです。名声を得る機会が全然なくて、それを寂しく思っていることを、ロキは良く知っていて利用したのでした。

「そりゃあ、いけないね。ホズ、あんたバルドルの兄弟なのに。ほら、この小枝をおとりよ。バルドルがどこにいるか俺が教えてやる。さあ、射てみろよ!」

ロキの目は赤や緑に燃えていました。全身が燃えているようでした。

ホズが言われたとおりに狙いを定め、過たずに射ると、ヤドリギはバルドルを刺し貫き、神はばったりと倒れて息絶えてしまいました。

庭中はしんと静まり返って、神々は口を開くこともできず、物音ひとつしませんでした。

誰もバルドルを助け起こすことすらできず、動くことさえできませんでした。

みんなホズとロキを見つめて、誰がバルドルを殺したのか察しましたが、この庭は聖所だったので血で汚すわけにはいかず、復讐することはできませんでした。

ロキはその場にじっと立っていましたが、やがて大股に歩いていくと、戸口から外へ出ていきました。

バルドルの葬式をする

バルドルが死んで、最初に口を切ったのは母親のフリッグでした。

「誰か、わたしの好意と寵愛のすべてを身に受けて冥界へ行き、バルドルを捜してきてくれる者はいませんか。冥界の女王ヘルに身代金を差し出して、バルドルをアースガルドへ連れ戻してきてください!」

この申し出に、オーディンの息子の一人ヘルモードが「わたしが行きます!」と立候補。

ヘルモードはオーディンの馬スレイプニルに飛び乗って、夜の国へと駆け出していきました。

それから、神々はバルドルの遺体を運んで、葬式を行いました。

バルドルの船リングホルンに火葬の薪を積み、バルドルの遺体をその上に乗せませした。バルドルが死んだショックで、一緒に死んじゃった奥さんナンナも隣に並べました。

オーディンはバルドルの上にかがみこんで、自分の腕輪ドラウプニルを外してバルドルの腕にはめました。これは昔、ロキがオーディンに贈った腕輪です。

そしてオーデンはバルドルの耳元で何かささやきましたが、この時オーディンが何と言ったかは、誰も知りません。神々にも人間にも、永遠に解けない謎になったのでした。

バルドルの葬式には、トール、チュール、ブラギ、フレイとフレイヤ、ヘイムダルやイドゥンらの神々、黒妖精や白妖精、巨人たちまでやって来て泣いていました。ただロキだけは、みんなから離れたところに立って、一滴の涙も流してはいませんでした。

ちなみに利用されるだけ利用された可哀想なホズは、「直接殺したのはお前だろ!」と、殺されちゃいます。どこまでも可哀想な人でした。

ヘルモード、ヘルに頼み込む

さて、フリッグから「冥界に行ってバルドルを連れ戻して!」と頼まれたヘルモード。

バルドル生還の為に、なんと九夜の間、馬をひたすら走らせて冥界へ進みます!

冥界の女王ヘルは、高くそびえる館エリュードニルに住んでいて、この館は絶壁のような壁に囲まれています。

ふつうはこの壁を超えることなどできないのですが、さすがは天下一の名馬スレイプニル!超がんばって壁を飛び越え、ヘルモードはエリュードニルに入り込むことに成功しました!

ヘルモードはヘルに挨拶して、「バルドル返してください」と頼み込み。

「バルドルは人々の言うほどに愛されているのですか。わたしにはそれほど確信がありませんね。では試してみましょう」

と、ヘルはヘルモードに難問を出します。

「もし、世界中のありとあらゆるもの、死んだ者も生きている者も、あらゆるものがバルドルの為に泣くのでしたら、バルドルをアースガルドへ還してあげよう。だが、もし誰か一人、一つでも泣かなかったら、バルドルはここニヴルヘイム(冥界)にとどまるのだよ」

「分かりました!」

と、ヘルモードは了解して、猛スピードでアースガルドへ帰ったのでした。

ロキ、もう一回バルドル殺害

ヘルが出した難問を聞くと、フリッグはすぐさま世界中に死者を出して

「バルドルの為に泣いてください!」

と頼みました。

ちょっと前に「バルドルを傷つけないと誓ってください」と言われて、そうしたように、またありとあらゆるものがバルドルの為に泣きました。

火も泣いたし、水も泣いたし、鉄やほかの金属もみんな泣いたし、病気も木も草も石ころも泣きました。

あちこちに頼み込みに行っているアース神たちは、

「よしよし、これで全部かな?」

と、思ったのですが、その時一人の老婆が洞窟の前に座っているのを見つけました。

「ああ、あのばあさんには頼んでない。おい、ばあさん、あんたの名前は?」

「セック」

「ばあさん、あんたもバルドルの為に泣いてくれないかね」

すると老婆は、「イヤだね」とバッサリお断り。

実はこの老婆、ロキの化けた姿だったのです。

「セックは乾いた涙でバルドルの弔いを泣くだろうよ。生ける時も死せる時も、オーディンの子のわたしのためになったことなど一度もないね。ヘルよ、握ったものを手放すな!」

神々はもはや打つ手はなく、バルドルは永遠に失われてしまいました。

そして神々は、あの老婆はロキだったに違いないと確信していたのです。

殺人犯になってしまったロキはどうなるのか⁈この後、「ロキの口論」に続く!
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