神話ログ

【ケルト神話】クーフーリンと赤枝の騎士団

一度生まれ変わったクーフーリン

昔、アイルランドが5つの国に分かれていたころ。アルスターの土地はコノール王が治めていました。このコノール王にはデヒテラという妹がいて、ある時この姫は王とともに「妖精の丘」と呼ばれる丘に出かけました。

そこには一軒の家があって、王と姫は一晩そこに泊まりました。家には親切な夫婦がいて、王と姫は厚くもてなされました。その夜、ふいにその家の女が「お産が始まる」というのです。心優しい姫はお産を手伝いました。産まれたのはかわいい男の子でした。

次の朝、不思議なことに、家も夫婦もかき消すようにいなくなっていました。ただ、デヒテラの手の中に産まれたばかりの男の子を残して。

デヒテラは男の子を自分の子として可愛がります。しかし、不幸なことにしばらくして男の子は息を引き取ってしまうのです。姫は悲しみ、一晩中泣き明かしました。やがてのどの渇きを覚え、一杯の水を飲みました。そのとき、小さな虫が水の中に入っていたことに、姫は全く気づきませんでした。虫はその命とともに、姫の体内に入りました。

その夜、姫は夢を見ます。太陽の神ルーが、姫に語りかけました。「デヒテラよ。そなたが可愛がっていた子供は、わたしの子だ。今、子供はお前の子宮の中にいる。やがて月満ちてお前は子供を産むだろう。産まれたら、セタンタと名付け、育てよ」

こうして生まれたのが、太陽神の子セタンタ。彼は成長し、クーフーリンと呼ばれることになります。セタンタが生まれたとき、ドルイド僧がやってきて予言を残しました。「この子はやがて、人々の称賛を得るだろう。あらゆる戦士、あらゆる王、あらゆる聖者が、この子の行った良いことを語り継ぐだろう。この子はこの世の悪と戦い、人の起こす破壊や争いを解決に導くことだろう」

クーフーリンは一度死に、そして高貴な姫の腹から再び生まれ変わったのでした。こうした神話は珍しくありません。「一度死んだけどよみがえった」「一度生まれたけれど、生まれる場所を間違えたので、死んで正しいところに生まれ変わった」というエピソードは、特別な英雄にはよくある話です。「生まれ変わった」というのは、「だからこそ、この人は特別なのだ」という証であったのです。

クーフーリンと名付けられる


【イングランド中部 ウォリック城】

セタンタが少年になったころ、コノール王はクランという金持ちの家で開かれる宴に出かけました。王は「そなたも来るがよい」とセタンタを招きます。少年は友達と球技に熱中していたので、「試合が終わり次第、すぐに参ります」と答えました。

ところでこのクラン家には、狂暴な番犬がいました。この番犬は子牛のように大きくて、近づくものを片っぱしからかみ殺してしまうのです。宴が盛んになったころ、この犬のけたたましい叫び声が聞こえてきたので、コノール王は「セタンタが後から来るのだった。もしや、犬にやられたのでは」と真っ蒼になって外に駆けだしました。すると、そこにはセタンタが立っていて、足元に犬の死骸が転がっていたのです。

セタンタは「番犬を殺してしまって申し訳ない。この犬の子を、わたしが預かって立派に育てましょう。犬が育つまでは、わたしが犬の代わりにこの家の番をつとめましょう」と、クランに謝罪します。コノール王をはじめ、人々はセタンタの強さと立派な態度に感動しました。そして以後、セタンタはクーフーリン(クランの猛犬という意味)と呼ばれるようになったのです。

影の国への旅立ち。赤枝の騎士団のリーダーになる

立派な青年に成長したクーフーリンは、一人前の戦士となるために「影の国」というこの世の果ての土地へ旅立ちます。そこには女戦士スカサハの城があり、彼女の弟子となれば、武術と魔術を学ぶことができるのです。

いくつもの危機を乗り越え、クーフーリンは女戦士の城へ行きます。城の周りには、首の刺さった柵がいくつも立っていました。古代ケルトには首狩りの習慣があり、戦いの勝者は負けた者の首を取り、家の前に飾っていたのです。彼女の城の前に飾られた首は、彼女の弟子になろうとして失敗した若者たちの首でした。

クーフーリンが城へ足を運ぶと、無数の怪物たちが表れてクーフーリンの行く手を阻みました。しかし、彼は驚くこともなく、次々に怪物を倒します。この若者の勇気に驚いたスカサハは、ついに弟子入りを許したのでした。

女戦士の元で、武術と魔術の修行に励んだクーフーリン。すべての技を伝授したスカサハは、最後に魔法の槍ゲイ・ボルグを彼に渡しました。これは投げると槍先から無数の矢が放たれるという不思議な武器で、その後クーフーリンの愛用の武器になったのでした。

立派な英雄となったクーフーリン。彼はコノール王の護衛を務める「赤枝の騎士団」のリーダーとして迎えられます。こうしてクーフーリンはその名を世に轟かし、同時に、騎士団を率いての数々の戦いが幕を開けるのでした。

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